RS_2.06 保管とエイジング

RS 2.06 保管とエイジング

コーヒー豆は、エイジングによって劣化します。豆の新鮮さの衰えを完全に防ぐことができる包装や保管のテクニックはまだありません。

コーヒー豆がエイジングによって劣化する主な原因は、炭水化物、脂質、およびタンパク質の酸化です(アブレイユら、2019)。酸化やその他の化学反応は、これらの重要なフレーバー前駆体を分解し、コーヒーを「衰え」させ、そのフレーバー強度の一部が失われていきます。

酸化はまた、脂質が酸化した際に生成される悪臭などの異臭も生成します。悪臭は、コーヒーに含まれる脂肪酸の量と脂肪酸の種類、および保存方法に大きく影響されます (カポラソら、2019)。生豆を酸素や過剰な水分から保護する適切な保管方法は、異臭の発生を防ぐことができますが、時間の経過とともに起こるコーヒー豆のフレーバーの衰えを防ぐことはできません (セルマーら、2008)。

生豆は伝統的に麻袋の中で保管されていますが、麻袋だけでは空気中の酸素や湿気から実質的には保護されていません。

コーヒーは保管されている間にフレーバー化合物を失っていき、抗酸化物質とカフェインのレベルも低下します。ポーランドの研究者は、Hard Beans クシシトフ・バラボスズ氏と協力して、生豆の保存方法に関する研究を実施し、12か月の保存後にカフェインレベルが約40% 減少することを発見しました (ザレブスカら、2022)。

異なるコーヒーは、異なる速度で衰えます。たとえば、ザレブスカ氏らは、グアテマラ産の同じような品質の2種のコーヒーを同じ条件で保管した後に比較し、ナチュラルプロセスのコーヒーはウォッシュドのコーヒーよりも衰えが進んでいないことを発見しました (ザレブスカら、2022)。

保管中にコーヒーのフレーバーがどの程度失われるかを決定する主な要因は、保管温度と豆の水分量です。高温は、保管中に発生するメイラード反応などの反応速度を高め、腐敗菌の増殖を助長する可能性があります。一方、保管中にコーヒーを-10°C~20°Cの温度に冷やした場合、メリットがあるとしても限定的な効果しか得られないようです (ザレブスカら、 2022)。


水分の役割

豆が白くなることや、かび臭さや、土臭さ、ウッディな香り、発酵したフレーバーの発生を避けるためには、豆の水分レベルを12% (ナチュラルプロセスのコーヒーの場合は 11%) 未満に保つことが重要です (ビーら、2004)。 ほとんどの輸出業者は、保管中における長期的な安定性を向上させるために、10~11% の水分レベルを選びます。ただし、乾燥しすぎたコーヒーはフレーバーの複雑さが失われ、衰える速度も早くなる可能性があります (カポラソら、2019)。

高い水分レベルでコーヒーを保管することによる悪影響の中には、豆自体の代謝によるものがあるかもしれません (ガウツら、 2008)。種子は発芽できない場合でも、十分な水分があると代謝プロセスは進み、豆に含まれる糖やその他の化合物がその過程で消費されます。

ですが、このような豆の代謝はフレーバーの衰えの最も重要な原因ではないかもしれません。保管中のコーヒー豆の中にある糖とアミノ酸の量の変化を観た研究では、この変化とコーヒー豆の組織の代謝プロセスには相関がないことがわかりました。つまり、豆自身の代謝を止めても、糖やアミノ酸は失われていったということです。 (セルマーら、2008)。

水分含有量が高くなると、保管中にゆっくりと起こるメイラード反応の速度も速くなります (ウォングら、2015)。メイラード反応は、豆の中の糖とアミノ酸を消費し、フレーバー前駆体の量を減らします。

ですが、水分値の高いコーヒーがより早く衰える主な理由は、カビや他の微生物が、豆の糖やタンパク質、脂質を食べているためと思われます。 クリストファー・フェラン氏は、発酵中に特定の酵母を植菌されたコーヒー豆は、従来の方法で精製処理された同じコーヒー豆よりも衰える速度が遅くなることを発見しました (フェラン、2020) 。おそらく、植え付けられた酵母が、コーヒーのフレーバーを損なわせる他の微生物を打ち負かしたためです。


保存方法の比較

世界中のほとんどのコーヒーは、麻袋に詰め込まれています。麻袋の中で保管されているコーヒー豆は空気中の酸素や湿気から保護されていません。GrainProや真空パックなどのバリア性の高いパッケージは、酸素と湿気を遮断し、コーヒーが衰える速度を遅くさせますが、コーヒーのフレーバーを無期限に維持できるパッケージは存在しません (アブレイユら、2019)。

左: GrainProは、従来の麻袋の内側の袋として使用され、豆を湿気や空気中の酸素から保護しています。
右: 高品質の生豆は、真空パックに密封されていることがあります。梱包時に空気を抜き、湿気や酸素の侵入を防いでいます。

高価な生豆に使用される真空パックは、最も効果的な保管方法と広く考えられていますが、他の高バリア包装も同様にうまくいくようです。気密包装が密封されると、内部の空気中の酸素が豆と存在する微生物によって消費され、二酸化炭素に置き換えられます (アロンソンら、2005)。保護するために二酸化炭素をさらに追加したとしても、効果は限定的であるように思われます。豆は追加された二酸化炭素を吸収し、焙煎に望ましくない影響を与える可能性があります (アンドラーデ、2017)。

保管中の生豆の品質におけるさまざまな種類の包装による影響。真空パックを含むバリア性の高い保管方法は、同様の効果を発揮します。従来の麻袋や紙袋などのバリアの低い方法はあまり効果的ではありません。コーヒーの劣化を完全に防ぐ方法はありません。出典: アンドラーデ (2017)

コーヒー豆は全て、長期間保存すると品質が低下しますが、生豆の場合は新鮮すぎる可能性があります。多くのコーヒーは、収穫後すぐに焙煎すると草のような味がします。一部のコーヒー豆(特にケニア産のコーヒー豆)は、より複雑なフレーバーが出てくるには収穫から数か月間かかることが知られています。ですが、この現象の原因や、どれほど一般的であるかを説明する研究を見たことはありません。



2.06 終

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