Æ_0.01 エスプレッソの特徴とは

Æ0.01 エスプレッソの特徴とは

エスプレッソには、他のコーヒーの抽出方法にはない特徴があります。

まずは濃度です。エスプレッソは他のどの抽出方法で淹れたコーヒーよりも濃く、そのTDSは一般的に7〜12%ほどになります。エスプレッソに次いで濃度が高いイブリックで淹れたコーヒーでさえ、TDSは約3%と大きな差があります。唯一の例外はインスタントコーヒーを抽出する工業的なプロセスです。この場合、湯温は最高180℃、抽出時にかかる力は約8気圧に達し、TDSは30%程度になります。その背景として、濃度が高いと乾燥に必要なエネルギーの量を減らすことができます(R J クラーク、1987)。

画像:ジェズヴェ

次に、抽出速度です。エスプレッソマシンは他のどの抽出器具よりも合理的な抽出速度を達成しています。ヨーロッパ中のカフェでエスプレッソが人気を博した大きな理由のひとつは、品質ではなくそのスピードにあります(J モリス、2013)。

そして、エスプレッソにはクレマがあります。クレマは高圧で抽出することにより発生します。この圧力でコーヒーオイルは乳化するとともに、二酸化炭素もその乳化物に溶け込み、全体が泡だちます。クレマは高圧下でのみ形成されるため、エスプレッソに特有のものといえます。モカポットなどの抽出器具でもコーヒーの上にゆるい泡を作ることはできますが、乳化をかけることができるほどの強い圧力ではないため、泡はクレマよりも薄く持続性もありません。

画像:モカポット

クレマを味わったことのある人であれば、クレマそのものは不快で苦味があることを知っていることでしょう。しかし、クレマにはいくつかの有用な特性があります。クレマは、コーヒーの香りに関連する化合物など、揮発性の高い香り成分をコーヒーから放出しやすくして苦味を感じにくくさせることがわかっています(D バロンら、 2012)。クレマが蓋のようにアロマを閉じ込める、と時折言われる説とは真逆のことが起きているのです。クレマの見た目は消費者の認識にも影響し、クレマがないエスプレッソは、力強さに欠け、品質が低いと受け取られる傾向にあることが分かっています(D ラベーら、 2016)。

通説とは異なり、エスプレッソは必ずしもその他の抽出方法より多くの油分を引き出すわけではありません。フィルターを使わない他の抽出方法のコーヒーとエスプレッソを比較した際の、使用したコーヒー1gあたりの総脂質含有量はほぼ同じで、フレンチプレスコーヒーの方がはるかに多いとする研究結果もあります(A N グロエスら、2013; W M N ラーネヤクら、1993)。しかしペーパーフィルターを使った抽出では、フィルターが油分を吸着するため、一般的に油分の含有量が少なくなります。

このように、コーヒー1gから抽出する油分量のみを見れば、他の方法と比べてエスプレッソが特別多いというわけではありません。しかし、その濃度の高さと乳化作用により、油分や油溶性の成分がエスプレッソドリンクにおいて独自の役割を果たしています。

まず、エスプレッソに求められる特性のひとつ、豊かでコクのあるボディについて考察してみましょう。コーヒーのボディは、TDS(L マエストゥら、2001)と未溶解固形分(T R リングル、2011a)と関連しており、どちらもエスプレッソには豊富に含まれています。そしてもうひとつボディに関連しているのが油分の濃度です。油分によって液体の粘度が上がり表面張力が下がる(M フェラーリ、2010)ため、エスプレッソのクリーミーな質感が生じます(T R リングル、2011b)。

油分が表面張力に及ぼすこの効果は、「ウェッタビリティ」という、エスプレッソが口内をコーティングする特性にも影響しています。エスプレッソでは、メラノイジンや多糖類の断片などの未溶解固形物が油分とともに界面活性剤として働き、このウェッタビリティが生まれやすくなります(L ナバリニら、2004)。ウェッタビリティはマウスフィールの重要な要素のひとつであるとともに、エスプレッソのアフターテイストが長く続く理由として考えられています。

また、油分は細胞壁繊維の断片に吸着した際にコロイドを形成し、微細な粒子のまま溶けずにコーヒー中を漂います(B フォルマー、2011)。このコロイドが舌の味覚受容体を覆うことで、苦味を感じにくくなるということがわかっています。つまりエスプレッソを(アメリカーノのように)薄めると苦味が増したように感じる背景には、エスプレッソのコロイド濃度の高さが関係している可能性があるのです(M ペトラッコ、2001)。お湯を加えることでコロイド濃度が下がると、味覚受容体が覆われづらくなるため、苦味成分を感じやすくなるということです。

最後に、エスプレッソコーヒーとフィルターコーヒーでは、液体を構成する成分の化学組成が少し異なっています。エスプレッソのようにフィルターを使わない抽出方法では油分の濃度が高いため、油溶性化合物の割合も高くなります。このような化合物は、時折苦味や焙煎香など私たちがよくネガティブに捉えがちな風味の原因となることがあります(J A サンチェス・ロペスら、2016)。それとは対照的に、フィルターで濾さないフレンチプレスのような抽出方法よりも使う水の量が少ないため、エスプレッソでは水溶性成分の抽出量が少なくなります(A N グロエスら、 2013)。


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