エスプレッソマシンコース 1章「 重金属 - 鉛汚染について心配すべきか?」

真鍮の製造には、伝統的にごく少量の鉛が使われます。食品衛生法に適合させるために、一部の製造業者は「 Ternary Eco Alloy (TEA)」と呼ばれる方法などを使って、真鍮の表面にコーティングを施し、水と直接ふれないようにしています。ほかの製造業者は、「鉛フリー」と呼ばれる真鍮に切り替えました。これは鉛の含有量が0.25%未満の真鍮です。「鉛フリー」真鍮では、加工しやすくするために、鉛の代わりにビスマスやシリコンといった添加物が使われることがあります(Choucriら、2019

鉛フリーの真鍮には最大で0.25%の鉛が含まれているため、水に鉛が少し溶け出すことがあります。もし水に長時間触れていると、溶け出す鉛の量が安全な飲料水に関する法的基準を超える可能性があります(Ng & Lin、2016)。

カフェで提供されるコーヒーから鉛が検出されたという不安をあおる話もありますが、より系統的な研究では、コーヒーによる鉛への曝露はかなり低いことがわかっています(デンマーク環境保護庁、2015)。コーヒーから検出される鉛は、抽出機器ではなくコーヒー豆によるものと考えられています。研究によると、

「どの抽出方法を使っても、コーヒー豆に含まれていた鉛はすべて抽出されたコーヒーに移っていました……。家庭用の抽出機器から鉛が溶け出した形跡は見られませんでした。」

研究者たちはエスプレッソマシンを特別に調べたわけではありませんでしたが、デンマークのカフェで提供されているコーヒーに含まれる鉛の量は、家庭用のコーヒーメーカーで淹れたコーヒーとほぼ同じであることがわかりました。

コーヒーから摂取される鉛の量は、ほかの食べ物などから摂取される鉛の量と比べて少なく、食事全体を通じた鉛の摂取量の中で大きな割合を占めているわけではありません。

鉛の影響が大きいのは、コーヒー以外のものからの摂取である可能性が高いです。たとえば、アメリカでは子どもにとって最も大きな鉛の曝露源は、家庭内のほこりだとされています(アメリカ疾病予防管理センター〈CDC〉、2017)。実際には、使うコーヒーカップによっては、カリフォルニア州が定める鉛の1日最大許容量を超える鉛曝露が起こることさえあります(Andersonら、2017)。

ですがホームバリスタは注意が必要です。ドイツの政府研究プロジェクトでは、家庭用エスプレッソマシンから高いレベルの鉛が溶け出すことが確認されており、特にスケール除去(湯あかの洗浄)を行った後にその傾向が強く見られました(BfR、2013)。最近では、ブルガリアの科学者ナスコ・パノフ氏による研究で、さまざまなマシンからの鉛の汚染レベルが調査されました。パノフ氏は、ボイラーのスケール除去後にもっとも高い鉛濃度が検出されたと報告しています。一方で、抽出用ボイラーから出る鉛の量は、ごくわずかでほとんど無視できる程度でした。

家庭用のマシンは業務用のマシンほど頻繁には使われないため、水が鉛を含む部品と長時間ふれつづけることになり、水に溶け出す鉛の量が増える可能性があります。鉛への曝露を減らすために、研究者たちは使用前にマシン内の水を一度流すことや、スケール除去を行った後はマシンを十分にすすぐことを勧めています。


アルミニウムについてはどうでしょうか?

アメリカ版の有名な家庭用コーヒーマシンGaggia Classicには、アルミニウム製のボイラーが使われています。


アルミニウムは、比較的安価で、軽くて強く、さらに熱をよく伝える金属です。熱伝導率は240 W/mK を超えており、ボイラーの素材としては多くの点で理想的だと言えます。ただし、アルミニウムのイオンは体にとって有害であり、体内に取り込まれると毒性があります(Exley、2016)。そのため、アルミニウムが使われる場合には、表面をスチールでコーティングしたり内張りをしたりすることが一般的です。アルミニウムは、主に家庭用マシンの小型ボイラーや、全自動マシンに使われるサーモブロックなどに使われます。特に熱伝導性が求められる場面では、その性質がとても役立ちます(レッスン1.06を参照)。ですがアルミニウムが酸性のコーヒーに直接ふれると、アルミニウムイオンが飲み物の中に溶け出すおそれがあるため、そのような使い方は避けるべきです。


1.02 終

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