エスプレッソマシンコース4章「 家庭用エスプレッソマシンの革命」
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スケイス氏、シェクター氏、そしてショーマー氏
インターネットの登場によって、バリスタたちは自分たちの考えを共有し、大手メーカーに対してより強い影響力を持つことができるようになりました。2001年初頭、一連の出来事がエスプレッソマシンを現代の新しい時代へと押し進めるきっかけとなります。それ以前の100年間、アメリカのコーヒーマシン市場は、ヨーロッパの古い設計を盗用し、それをあたかもオリジナルであるかのように売り出すことで成り立っていました(Maltoni and Carli 2020)。ですが2001年以降、その不均衡が正され始めました。
予想通り、ワールドワイドウェブ(インターネット)の登場は、アメリカの製造業に革新をもたらしました。ですが意外なことに、ホームバリスタたちが、エスプレッソマシンを21世紀へと進化させるうえで中心的な役割を果たしたのです。2000年代初頭、「alt.coffee」というフォーラムは、コーヒー好きの人々にとっての拠点となりました。
このフォーラムの利用者であり、カナダ・バリスタ・インスティテュートの共同創設者であるレス・クアン氏はこう語っています。
「サードウェーブ・スペシャルティコーヒーの原点は、まさにこのフォーラムだったんです。ごく短期間のうちに、情報やアイデアをみんなで共有し、実際に試して検証するようなコミュニティが自然に生まれました。そうすることで、根拠のない神話のような情報はすぐに見抜かれ、本当に有効で実用的な知識だけが残りました。そのおかげで、みんなが無駄な時間を過ごさずに済んだんです。」
フォーラムで特に多く議論されたテーマのひとつは、テクノロジーとDIY精神を活用して、エスプレッソ抽出における熱の安定性をいかに高めるかという問題でした。
ショーマー氏
ワシントン州シアトルのデイヴィッド・ショーマー氏は、ラテアートにおける「ロゼッタ」の生みの親として広く知られており、「カフェラテアート(caffe latte art)」という言葉を最初に使った人物でもあります。1990年代後半、ショーマー氏はラ・マルゾッコ社と関係を築き、同社から試作実験のためのスペースを提供されていました(Bernson 2015)。ショーマーは、エスプレッソにおいて最も重要なのは圧力ではなく「湯温」だとはっきり主張していました。彼はその理論を、1990年代に雑誌Café Oléのコラムや、1996年に出版された著書『Espresso Coffee: Professional Techniques』の中で発表しています。
ショーマー氏は、伝統的なエスプレッソマシンメーカーが温度安定性を実現できていないことを、非常に強い口調で非難しました。
彼の考える理想の温度安定性とは、ショットごとの温度変化が±0.5℃以内に収まることでした。雑誌Café Oléの中で彼は次のように書いています:
「39ドルのMr.Coffeeのほうが、1万ドルもするこれらのマシンより温度が安定している。恥ずかしい話だ。メーカーは恥じるべきだ。」
シェクター氏
アンディ・シェクター氏がこのあとのインタビューで語っているように、ショーマー氏の本は「alt.coffee」フォーラムの多くのユーザーに、エスプレッソにおける温度安定性の重要性を強く印象づけました。インターネットがコーヒーの革新を後押ししていたちょうどその頃、「発酵」に関する分野にも勢いが生まれていました。発酵の専門家の一人がアンディ・シェクター氏で、1990年代にはニューヨーク州北部にある高品質な豆腐を製造している工場で技術者として働いていました。この次のレッスンでのインタビューでアンディ本人が語っているように、豆腐業界では1990年代からすでにPID技術(比例・積分・微分制御)が使われていました。そして2001年2月3日、シェクターは「alt.coffee」フォーラムに、自身のRancilio Silviaという家庭用エスプレッソマシンにPIDコントローラーの取り付けに成功したことを投稿したのです。
スケイス氏
プロダクトデザイナーでありエンジニアでもあるグレッグ・スケイス氏は、「alt.coffee」フォーラムの初期メンバーの一人でした。彼もまた、2001年にアンディ・シェクター氏の投稿からわずか数日後、自宅のエスプレッソマシンにPIDを取り付けて改造した人物です。レス・クアン氏とのインタビューの中で、彼らは「alt.coffee」フォーラムの黎明期や、初期のPID改造の取り組みについて語り合っています。スケイス氏はこう説明しています。
「本当に面白くて革新的な取り組みの多くは、2001年初頭のおよそ4か月間のうちに達成されました。そして、2000年から2004年の間に、PID(比例・積分・微分)制御に関するすべての実験と導入が完了しました。」
ショーマー氏が行っていた「抽出時に出てくるお湯の温度」を測定する方法に刺激を受けたグレッグ・スケイス氏は、マシンの温度管理で本当に重要なのは、グループから出てくるお湯の温度だということに気づきました。スケイス氏の言葉を借りれば、マシンが本当に温度安定しているかどうかを判断するには、
「コーヒーに当たる直前の水の温度を測ることが、最も重要な測定だ。」
2004年、スケイス氏はグループヘッドの温度を測定するためのツール「スケイス・サーモフィルター」を開発しました。これにより、さまざまなエスプレッソマシンの温度性能の優劣が広く知られるようになりました。また彼は、現在もワールド・バリスタ・チャンピオンシップ(WBC)のマシン認証に使われている、マシン評価のためのテストプロトコルも開発しました。

4.01 終
