手動と電動、エスプレッソの液性に違いはあるのか?
共有
この投稿では、手動型エスプレッソマシンと電動型エスプレッソマシンで抽出されたエスプレッソの液性を比較し、味ではなく科学的な側面から実際の違いが生じるのかどうかを調査した結果をご紹介します。
私たちはこれまで「安定した抽出を達成するためには電動型が好ましい」という認識が一般的でした。しかし、それは液体の物性や抽出成分に裏付けられているのでしょうか。
今回のテストでは、焙煎度合いの異なる2種類のエチオピア産のコーヒー豆を用い、抽出比率や温度など可能な限り抽出環境を同条件で揃え、手動型と電動型の両方からエスプレッソを抽出しました。その上で、抽出液を粘度計・屈折計などを用いて測定し比較しています。
結果として、TDS(全溶解固形分)や動的粘度などの数値には大きな差が見られませんでした。
唯一、電動式で抽出した深煎りのエチオピアのみTDS測定時のろ過速度にやや時間がかかる傾向が見られました。これは抽出液中に含まれる高分子の割合が高い可能性が示唆されますが、遠心分離(6,300rpm・10min)後の沈殿物の比率に差は生じていることに由来している事との相関が考えられます。
一方で動的粘度に大きな差が現れておらず、また同傾向は浅煎りでは確認されていないことから、あくまで今回の抽出条件において高分子の抽出比率が高かった、という結果までとなります。
粘度は音叉型粘度計で①高温(50℃以上)、②室温程度を測定しましたが、高温時に比べて液温が室温程度まで下がると粘度を示す数値は2倍以上になる、という傾向は抽出器機・焙煎度合いに由来せず共通する傾向が確認されました。
粘度に影響し得る成分として油層の抽出を遠心分離(6,300rpm・10min)で試みましたが、いずれの検体でも液相の分離には至らず、油脂類が液中に分散した状態で安定していることが目視されています。
もし液相を分離させてみたい、という方は今回の沈殿試験向けの条件でなく、20,000rpm以上の超遠心で試験してみると目視に至れるかもしれませんので、ぜひ試してみてください。
液温がより低いほど粘性は上がる、という事象について感覚的に理解できる方は多いかもしれません。そもそも液温が低いという事は、コーヒーに含まれる水分子以外の成分間に働く”分子間力”がより強くなる(=抵抗力が上がる)ため、粘性を生じます。
純水であっても、この働きは水分子同士でも働き、この水分子同士に働く場合には「水素結合」と呼ばれる結合が支配的になっています。コーヒーの場合にも水素結合は当然生じていますが、一方でコーヒー豆から抽出されたタンパク質やカフェインなどの分子間にはファンデルワールス力など水素結合とは異なる分子間力が生じています。
コーヒーの場合は多糖類(poly-sccharides)も粘度に影響をもたらす存在として知られています。多糖類は比較的高分子で、水中では球状・らせん状などの構造を取り、これらが絡み合うことで上記と異なる抵抗力(=粘度)を発現させます。
今回の結果として抽出機器による粘度の値に大きな乖離が見られなかったことは、これらの成分の抽出においては遜色がない、という可能性が充分に示唆されました。
物性などの計測値には大差がなくても、人が介在する余地がどれだけあるか、による安定性や抽出される具体的な成分についてはまだまだ解明の余地は残されているため、ぜひご自身でも検証してみてはいかがでしょうか。
今回の検証に使用した手動式エスプレッソマシン「Arco(アルコ)」は以下のサイトから購入できます:
もしこのテーマをさらに掘り下げたい方は、BHオンラインコース「エスプレッソアドバンス」と「エスプレッソマシンコース」がおすすめです。
エスプレッソの抽出に関する科学的な分析から、バリスタがコントロールできる変数を網羅したコースと、エスプレッソマシンが開発されてきた歴史的観点やその作用機序の変遷について学ぶことができます。まずはコースページの無料プレビューからどうぞ!

