
《アロマプロジェクト-Part1-後編》
焙煎機との最初の出会い
焙煎に関して、凝ったプロファイルを作る必要はないと考えています。私はたった2段階のプロセスでそれなりのクオリティを引き出せると考えています。「1ハゼ」に関しても懐疑的な見解を持っていて、CO2メーターで焙煎の「本当の開始点」を見極めるべきだと考えています。なぜなら、焙煎という化学反応の結果として生まれるのがCO2だからです。最初に起こる水分の蒸発は、単なる物理的な変化にすぎないのです。

また私は、焙煎が上手くいかないと、多くのアロマ分子が排気に流れて無駄になってしまうはずだ、という考えも持っていました(ネタバレになりますが、これは結果的に誤りだと分かりました)。
なお、こうした測定には電気式ロースター、または間接加熱式のガスヒーターが必要です。一般的なロースターでは燃焼ガス由来のVOCやCO2が関心のある信号をかき消してしまうからです。
そんな中、RoestのHead of Coffee and Customer SuccessであるTom Hopkinsonとの出会いによって、Roest L200サンプルロースターが私の「ラボ」にやってきました。これは高品質のドラムロースターで、あらゆる要素を非常に細かく制御できます。WiFiとクラウドに対応しているので、過去の焙煎の全データをすべて保持できる優れものです。

焙煎中のアロマ損失の測定
焙煎中のアロマ損失についても測定を試みました。異分野から参入した研究者が「これは大発見だ」と意気込んでも、その道のエキスパートからすれば「そんなの当たり前だ」と言われることはよくある話です。 190℃付近でアロマ分子が大量に放出され始めるのは、あまりにも明白な事実でした。そのため、私のVOC(揮発性有機化合物)メーターが大きな反応を示すことに疑いはありませんでした。
ところが、排気から一定の気流を取り出すのは意外と厄介です。いろいろ試すうちに、拾えるVOC(揮発性有機化合物)が驚くほど少ないことに気づきましたが、これはこの測定方法に改善の余地があると考えています。
コーヒーを焙煎すると素晴らしいコーヒーの香りが大量に出ることは誰でも知っています。それでも私は、日常的に焙煎をしている人たちが昔から知っていることを改めて「発見」することになりました。焙煎中の匂いはコーヒーの匂いというより、パンを焼く香りに近いのです。豆やロースターにあまり依存しない、はっきりしているけれど強くはない「焙煎の香り」があります。私はまだ、これが何なのか説明できる焙煎の専門家に出会っていません(分かる読者がいたらぜひ教えてください)。私が言えるのは、どの焙煎からもアロマ信号はかなり小さく、そしてそこから出ているのは私たちにとって貴重なコーヒーのアロマ分子だ、ということです。
ファーストクラックを捨てて、代わりにアロマ信号の大きなRoRで置き換える、という私の計画はここで崩れました。
CO2

そこでCO2を測る方向に切り替えました。従来のファーストクラック付近でCO2が急増することを示した博士論文はいくつもあります。それを再現し、ファーストクラックの代わりにCO2のRoRを使えないか試してみることにしました。
測定では、一定の背景レベルのCO2を差し引く必要があります。だからロースターの吸気には、焙煎室内の変動の影響を受けない外気を供給しなければなりません。この点でもTomがセットアップを助けてくれました。詳細はPart2で説明します。
現象の本質を理解するためには、単にCO2を時間軸で追うだけでは不十分でした。そこでCO2を豆温度に対して可視化し、さらに「CO2のRoR」を併せて示すことにしました。 次に必要だったのは、ROESTから得られたデータとCO2データの統合です。時間軸のでは、豆温度(BT)とクラック数(視認性を高めるため10倍に調整)をCO2濃度に重ねて表示しています。これにより、どの温度帯で、あるいはどのタイミングで化学反応が加速しているのかを鮮明に描き出しました。

まずクラック数から見てみましょう。L200には音声ベースの賢いクラックカウンターがあります。私は何度も自分の耳で確認しましたが、カウントが間違っていることは一度もありませんでした。表示上は1から3クラックへ(10倍表示なので注意してください)進むのに1分以上かかり、その間に豆温度は188℃から197℃に上がっています。総クラック数は10回です。これは100gの豆、つまり約600粒のうち10粒が割れただけで、クラックしたのはわずか1.7%に過ぎません。焙煎をモニターする方法としては、なんと心許ない指標でしょうか。
次にCO2カーブを時間と温度の両方で見てみます。CO2は約3分、約160℃あたりから生成され始めます。その後、時間軸ではほぼ一定に増加し、温度は上向きのカーブになります。化学反応は一般に温度が10℃上がるごとに速度が倍になることが多いので、これは予想どおりです。
かつて私は、CO2 RoRが鋭く立ち上がる瞬間こそが、ロースターが見極めるべき重要なポイントだと提案したことがあります。ですが、その考えも間違っていたと認めざるを得ません。 当時の仮説は、既存の博士論文のデータと論理的な考察に基づいたもので、自分なりに確信を持っていました。しかし、一つの事例に囚われず、超高速焙煎からスローな焙煎まで、あらゆる条件で検証を重ねた結果、答えは明白でした。CO2の挙動から「ここからがディベロップメントタイムだ」と示すような明確なサインを読み取ることは、現実的にはできないという結論に達したのです。。
この失敗によって、私はデータを別の見方で捉える必要に迫られました。今何をしているのかは、ここではあえて伏せておきますが、CO2の話は当初の「ファーストクラックの置き換え」よりずっと面白い方向に進みそうです。このアイデアをさらに掘り下げるために、Tomからの追加の助言を受けてプロトコルも更新しました。続きはPart2を待ってください。

さらに、Al-Shemmeri博士の助言と、私の測定器がデュアルセンサーに対応したことで、一酸化炭素(CO)の同時測定が可能になりました。正直なところ、どのようなデータが得られるかは全くの未知数でした。 予測された可能性は大きく分けて二つ。もしCOがCO2と全く同じ挙動を辿るだけなら、それは「予測の範囲内」であり、便利ではあっても面白みには欠けます。逆に、もしCOが全く異なる信号を示したとしたら……それは極めて興味深い発見になります。 幸いなことに、結果は後者でした。これを受けて、現在私はExcelでの解析をすべてやり直し、焙煎実験の計画自体を根本から組み直している最中です。 Part1はここまで Part2は現在製作中です!