
BHブログ【フェイククレマ】
クレマに焦点を当てた新しいブラインド・テイスティング実験を行いました。これは以前に実施した「作り置きエスプレッソ+ミルク」のテイスティングです。前回は、作り置きのエスプレッソにミルクを加えたものを好む傾向が見られました。信じがたいですよね。その予想外の結果の理由は、おそらくクレマが関係していると思われます。
まず言えるのは、クレマは決して不要な存在ではないということです。現代のエスプレッソ文化(1940年代のガジアのレバー式マシン以降)は、クレマが存在しなければ成立していなかったはずです。これからも長く残ってほしいものです。
とはいえ、クレマのないエスプレッソを試したことはありますか?ここで言っているのは、抽出してみたらクレマがほとんど出なかったショットのことではありません。クレマが出るはずなのに出ない場合は、豆の焙煎がアンダーか、挽き目が粗すぎる、あるいは逆に細かすぎる可能性が高いです。
そうではなく、ここで言う「クレマのないエスプレッソ」とは、素晴らしいショットにもかかわらず、提供前にクレマだけ取り除かれているケースです。これは一種の珍味で、最高のトルココーヒー体験に驚くほど似た感覚と言えます。

私たちは、フレッシュなエスプレッソよりも作り置きエスプレッソで作ったラテの方を好みました。そして作り置きのエスプレッソにはクレマがありません。つまり、エスプレッソそのものとしてはフレッシュな方が明らかに優れているにもかかわらず、ラテに関しては作り置きに軍配が上がる要因があり、それがクレマ、あるいはクレマの欠如に関係している可能性が高いのです。
作り置きエスプレッソにはクレマがないと言いましたが、実は作ることはできます。これを使えば:
フェイク・クレマ実験

私たちはNano Foamer(ナノフォーマー)という小型のミルクフォーマーを使用しました。これは主にミルクを泡立てるための器具で、一般的な電動ウィスク(ホイッパー)と違い、フォーマー内部の羽根で液体を撹拌して細かいメッシュに通すことで泡を作ります。エスプレッソを30秒間ナノフォーマーにかけると、クレマのようなものができます。これにより、いくつかの検証が可能になりました:
- 作りたてのクレマは、ミルクコーヒーをより苦く/刺激的にするのか?
- 作り置きエスプレッソを泡立てて作る「フェイククレマ」は本物と比べて、どの程度同じ質感・味なのか?
- フェイククレマの傾向を知ることで、化学的理解は深まるのか?
私たちは、冷蔵庫の温度(約4℃)で25時間保管した作り置きエスプレッソを使用しました。そしてそれをラテにし、ナノフォーマーで処理したものと比較してブラインドテイスティングを行いました。
- ラウンド数:5回(ブラインドテスト)
- 各ラウンド
- ラテA:作り置きエスプレッソ24g(冷蔵)+約150mLのノンホモ牛乳
- ラテB:同じエスプレッソをナノフォームしてからミルクを加えたもの

結果
ラテAとラテB(フェイククレマあり)の味の差は劇的ではありませんでしたが、好みの投票では通常の作り置きラテが9票、フェイククレマ付きが1票となりました。この結果は統計的にも有意(p≈0.021)であり、明確な感覚差があることを示しています。 つまり検証1への答えは「YES」となります。味の違いはあり、フェイククレマの方がより刺激的(えぐみ)でした。
ピッカリング乳化によるフォームの仮説とオストワルド熟成
検証2の答えです。フェイククレマは本物のクレマとは違うのか?
→ まったくの別物です。
今回の大きな発見の一つは、作り置きエスプレッソを泡立てると、オストワルド熟成(液体の質感が時間とともに劣化していく現象)が顕著に起こる、という事でした。45秒ほど放置すると明確にわかります。小さな泡と大きな泡の圧力差により、ガスが小さい泡から大きい泡へ移動するので、小さい泡は消えて、大きい泡はさらに大きくなります。その結果、時間とともにクリーミーさが失われていきます。視覚的には面白いですが、口当たりには悪影響です。
この現象を踏まえ、実験では泡が崩れる前にすぐミルクを注ぎました。
その後、科学者に意見を求めました。以下は、専門家であるアボット教授のコメントです:
本物のクレマはナノフォームよりも早くオストワルド熟成するはずです。理由はギネスビールの泡(窒素)と通常のビール(CO₂)の違いと同じです。本物のクレマはCO₂、ナノフォームは主に窒素です。CO₂は水に溶けやすいため、泡の中をより速く移動します。

では、本物のクレマがなぜ本来よりも長く持続するのか、という疑問が出てきます。これについてアボット教授は次のように述べています:
ピッカリングフォームとして安定化されているからだと思います。細かな疎水性粒子が泡を覆うことで泡の構造を安定化させると同時に、ラテの中では“疎水性成分に由来する不快な要素”として味覚に影響している可能性があります。
「ピッカリングフォームとは?」
通常の泡は界面活性物質(タンパク質や脂質など)によって安定化されますが、代わりに微細な固体粒子が分子の境界面に付着することで泡を機械的に安定化させることをピッカリング乳化と呼び、その結果生じた泡をピッカリングフォームと呼称します。

新鮮なエスプレッソのクレマの泡構造(ピッカリングという現象を正当化しているように見える)
もしクレマがピッカリングフォームだとすると、なぜナノフォーマーではそれが再現されにくいのか? → シャンパンの泡の例を用いて説明されています。 
シャンパンの泡
"シャンパン"の泡が立ち上がるとき、表面へ向かう途中で疎水性の香り分子を取り込みます。本物の"エスプレッソ"のクレマでは、すべての泡はどこからともなく現れたCO2であり、表面へ向かう短い移動のあいだにいくつかの微粒子を取り込みます。一方でナノフォーマーの場合は、新鮮な空気が圧倒的に多く、さらに泡とコーヒーが強制的に激しく動くため、多くの泡がほとんど疎水性粒子に触れていません。その結果、泡は保護されず、より早く壊れてしまいます。
結論
今回のテイスティングでも前回と同様の傾向が見られました。
つまり、クレマ(新鮮でもフェイクの後付けでも)は液体部分に比べて、より刺激的な味として感じられる傾向があります。したがって、抽出後にエスプレッソを回転させる(ボルテックス)という手法は理にかなっています。

ボルテックスの例
終わり