ACM_5.2 濃度勾配および拡散
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濃度勾配および拡散
浸漬法と透過法、2つの抽出方法の最も顕著な違いは、収率を経時的に測定した際の濃度勾配の変化です。 図を見るとこの2つの抽出方法では、時間の経過とともに抽出率が大きく異なっています。
この浸漬法 vs 透過法の図はスコット・ラオの許可を得て掲載しています。
水中でコーヒーの分子は、高濃度のところから低濃度のところへ自然に広がります。 この現象は拡散と呼ばれ、同時に濃度勾配と呼ばれる現象を伴います。
お湯を張ったカップにティーバッグを入れて、揺らさずに放っておけば、ティーバッグに近いところは溶解した紅茶の固形分の濃度がより高くなります。 ティーバッグ内部が最高の濃度になり、飲み口に近いカップ上部が最も低い濃度となります。(ティーバッグを長時間放置しない限り) これが濃度勾配です。 この勾配は濃度の差が大きいほどに急になります。 ティーバッグとお湯の場合、ティーバッグを軽く揺らして全体を混ぜればこの勾配差が小さくなると思うかもしれませんが、実際は勾配が大きくなります。なぜなら、ティーバッグを揺らした後に飲み口に近いカップ上部の薄い紅茶と混ざり、茶葉に最も近い液体部分の濃度が薄まるためです。 この濃度勾配の増大は、より速い拡散速度つまりより速い抽出速度に繋がります。これはカッピング時にクラストをブレークする際、撹拌がなぜ抽出速度を早めるのか、という説明を容易にします。 ティーバッグを揺らさなくても、お茶は結果として抽出されることは周知の事実ですが、抽出工程として遅く、時間の経過と共にお湯の温度が徐々に低下することでさらに遅くなります。
この図はティーバッグ内の濃い液体、ティーバッグ付近の濃い液体と、ティーバッグから離れた薄い液体間の濃度勾配を示しています。
最初に大量の水を加える浸漬法の抽出は、一般的に抽出サイクルの初期段階で高い抽出率に到達します。対照的にドリップコーヒーにおける、蒸らしと呼ばれるプレ・インフュージョンの間の収率は非常に低いとされています。 ドリップコーヒーは、抽出サイクルの始めに粒子が水を吸収する一方で、浸漬法ではお湯を注ぐとすぐに粉の表面抽出に移行します。 この抽出速度の差は、浸漬法には抽出に使用できる水が透過法に比べて抽出初期からより多く存在しているという単純な理由に寄ります。 水は抽出における溶媒であり、より多くの溶媒の存在はより速い抽出を意味するのです。
新鮮な抽出用のお湯が継続的に加えられ、ケトルの水流を使って粉を撹拌するドリップコーヒーは、カッピングに用いられる浸漬式抽出よりも高い濃度勾配を有するので、よりアグレッシブな抽出方法と捉えることができます。 ドリップコーヒーでは、蒸らしの工程を経て抽出が進むにつれて、固形分への浸食と高濃度帯から低濃度帯へと粒子が移動する拡散が起こります。
撹拌または浸食が機能しなくても、十分な時間が与えられればティーバッグ内の可溶性成分とカップ内の水との間には勾配がなくなります。 この平衡にはより高い温度でより速く至ります。 アレニウスの公式(レッスン4.4)で見たように、反応速度は温度の上昇とともに増加し、高濃度では減速します。 また、浸漬法における収率の曲線は時間を追うごとにかなり減少します。 逆に透過法は浸漬法と比べて抽出サイクルの終了時に高い収率へ到達します。 これは浸漬法に比べて、ドリップコーヒーの抽出が難しいことを意味しています。 また、浸漬法は抽出特性上18~22%の収率により早く達するので、抽出管理表の最適な抽出範囲に調整しやすいとも考えられていますが、だからと言って浸漬式抽出がより美味しいと言う訳ではありません
クレバードリッパーやエアロプレスのようなハイブリッドタイプの抽出器具では、抽出終了時に一気に水位を下げるフェーズ(重力を使ったり、人為的に押したりするフェーズ)が存在します。ハイブリッドタイプの浸漬法と透過法の明確な違いは、抽出サイクルの最後に抽出する液体が最も濃い液体となることです。 逆にチャネリングも無く、完全に均等に抽出されたドリップコーヒーの最後の一滴は、最も薄い液体となるでしょう。これらを理解するためには、屈折計を正しく使用し、正確な数値を計測することが鍵であり、粉に残された液体量を正確に考慮する必要があるのです。
5.2 終