RS_3.03 焙煎中の化学反応における水分の役割
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RS 3.03 焙煎中の化学反応における水分の役割
水分は、伝熱に影響を与えるだけでなく、焙煎中に起こる化学反応にも影響を与えます。焙煎プロセスにおけるさまざまな段階での水分含有量と水分活性は、コーヒーの化学的および物理的変化の速度に大きく影響します (シェンカー&ロスギブ、2017)。メイラード反応といった一部の反応において水分は不可欠です。他の反応では水を直接使用しないかもしれませんが、水分含有量はそれらが起こる速度に影響を与える可能性があります。
理論的には理解できていますが、残念ながら実際に水分含有量がコーヒーの焙煎にどのように影響するかを立証することは非常に難しいです。コーヒー生豆に水を加えて焙煎への影響を確認することは簡単ですが、追加した水が化学反応に直接影響を与えているのか、それとも熱伝導率のみに影響を与えているのかを判断するのはとても難しいです。
同じ条件下で焙煎された異なる水分レベルのコーヒー豆を比較した研究では、当然のことながら水分含有量が高いほどコーヒーのディベロップの速度が遅くなることが示されました (バゲンストスら、2008)。水分が増えることは、焙煎中にコーヒーがあるレベルまでディベロップするためにより多くの熱を必要とすることを意味するため、ディベロップの速度の違いは伝熱に生じる変化が原因である可能性が最も高いです。
化学反応における水分の役割を伝熱への影響から切り離すことは困難ですが、ロースターによっては生豆の水分含有量が高いほど、焙煎したコーヒー豆のフレーバーが良くなると主張する人もいます。たとえば、Phoenix Coffee のクリストファー・フェラン氏は、生豆に水を加えるとフレーバーが改善されることを発見しました (フェラン、2020)。 ですが、この効果は焙煎の化学変化によるものであり、伝熱においてどの程度の変化があったかを知ることは困難です。フェラン氏によると、「水分含有量の高いコーヒーは、カッピングテーブルでより好まれる傾向があり、よりフレーバーが強くなります」とのことです (フェラン、2021)。
この写真は、焙煎への影響を調べるために、さまざまな水分レベルに調整されたコーヒー生豆を示しています。水分含有量が最も高い豆は、スマトラ式のコーヒー生豆の色に似た、より深い青緑色になります。画像提供: クリストファー・フェラン
焙煎中に作られる水分
焙煎中に生じる化学反応によって、水が新たに生成されるため、焙煎中の水分の役割を完全に理解することはさらに難しくなります。これらの化学反応によって生じる水は、焙煎中にコーヒー豆から放出される水分の最大40%に達します (ガイガーら、2005)。そのため、乾燥している生豆でも焙煎が開始されると反応に使用できる水がまだ生豆内に残っています。
化学反応によって生成される水を調べるために、研究者は焙煎時の排気中に含まれる水の量を測定しました。彼らはドライングフェーズに入る前のコーヒー豆から放出される水分を、焙煎中の化学反応によって主に生成されたものと想定して、排気中の水分量と比較しました。
焙煎の最初のフェーズで豆から蒸発する水のほとんどは、コーヒー豆にすでに存在していた水分であることが分かりました。最初のフェーズで生豆の大部分の水分が蒸発すると、化学反応で生成された水分が豆から逃げる水分の大部分を占めるようになります (ガイガーら、2005)。
水分は焙煎中に作られ、焙煎中ずっと蒸発し続けます。実線は通常のコーヒー豆(初期の水分値 8.3%)を焙煎した際の蒸発した水分量の合計です。点線は、ドライングフェーズに入る前のコーヒー豆から蒸発した水分 (水分値 1.1%) を示しており、主に化学反応によるものと考えられます。破線は、通常のコーヒー豆に含まれていた水分の蒸発を示しており、合計から化学反応によって生じた水を差し引いて計算されています。出典: ガイガーら(2005)
焙煎終了時には、化学反応による水分の蒸発量が減少します。研究者によると、これは反応を促進する化合物が不足しているためか、蒸発ではない他の反応によって水が使われているためである可能性があるとしています (ガイガーら、2005)。
水分とメイラード反応
水分量はメイラード反応の速度に大きく影響します。メイラード反応が起こるには、コーヒーに一定量の水分が必要です。ほとんどの食品では、水分活性が0.65~0.75のときにメイラード反応が最も速く生じ、水分活性が0.3を下回るとほぼ停止します (ワンら、2015)。
水分活性と水分含有量の関係は温度によって変化するため、焙煎中の水分活性は室温での水分活性と同じではないことに注意してください。所定の水分含有量のコーヒーにおいては、水分活性は温度が高いほど高くなります (コラゾス・エスコバーら、2020)。したがって、焙煎中非常に乾燥したコーヒーでも、メイラード反応が起こるのに十分な水分活性が残っている可能性があります。
メイラード反応は一定量の水分があることに依存するため、水分含有量が減少するにつれて、焙煎プロセスの後半では反応の速度が低下し始めます (ワン&リム、2013)。
実験室ではアミノ酸と炭水化物を一緒に加熱すると、水分含有量はメイラード反応が作り出すアロマの混合物も変化させました (ホフマン&シベリー、1998)。一般的なコーヒーの焙煎条件下でも、この効果を得ることができるかどうかは不明です。
水分と反応速度
水分は豆の他の反応速度にも影響すると考えられています。たとえば、水はクロロゲン酸の分解に関与しているようです。特に、焙煎プロセスの初期に当てはまります (クリフォード、1985)。
多くの反応は、圧力が高いほど速く起こります。焙煎中、水分が蒸発する結果、豆内部に高い圧が発生するため、水分含有量もこれらの反応速度に影響を与える可能性があります (ファラー、2020)。
焙煎中、コーヒー豆は「ガラス転移」を起こし、その間に豆の構造はゴム状からよりもろい状態に変化します。これが起こると、豆の中の化合物が移動して相互作用しづらくなるため、多くの反応の速度が低下します (ワン& リム、2013)。ガラス転移が起こる温度は、豆の水分量に依存します。ガラス転移については、レッスン 3.07 で詳しく説明します。
3.03 終