RS_4.06 伝熱「モーメント」

RS 4.06 伝熱「モーメント」

モーメントとはコーヒー焙煎で広く使用されている用語で、焙煎機内のガスとエアフローの変化によって生じるコーヒー豆の温度とRoRの遅れにおける変化の仕方を表します。モーメントとは多くの場合、豆の温度上昇率 (RoR) に関連しています。たとえば焙煎を終えるのに十分なモーメントで1ハゼに突入させることを話すロースターがよくいます。つまり、ここでロースターが述べているモーメントとは十分に高いRoRを意味しています。

1ハゼ開始時の高いRoRは、焙煎に「モーメント」を与えると言われることがありますが、焙煎機に蓄えられた熱エネルギーの量で考える方が正確です。


ここでのモーメントは錯覚であることを理解することが重要です。 RoRは、焙煎機内の豆とその環境の温度差によって異なります。その温度差を取り除くと、豆の温度はすぐに上昇しなくなります。つまり、RoRに本質的な「モーメント」はありません。

ですが、焙煎中にガスを止めても、焙煎機自体と焙煎ガスにはまだ多くの熱エネルギーを留めています。焙煎機内の表面とガスが豆よりも熱くなっている限り、豆に熱が伝わり続けます。この蓄積されたエネルギーが、豆の温度におけるモーメントの錯覚を生じさせています。この現象が生じるのは、ガスがオフになっていても、豆の温度が上昇し続けるためです。

焙煎機と焙煎で生じるガスの温度が豆の温度よりもはるかに高い場合、RoRが高くなります。そのためRoR が高いということは、焙煎機と焙煎で生じるガスは豆に伝達できる多くのエネルギーを持っていることになります。これが、より高いRoRの焙煎がより多くの「モーメント」を持っているように見える理由です。つまり熱い焙煎機と焙煎で生じるガスはより多くのエネルギーを留めています。

流動層焙煎機とドラム式焙煎機の「モーメント」
流動層焙煎機(a) において、ほとんどの熱は熱風を介して豆に伝達されます。大きな温度差と効率的な伝熱により、上昇率 (RoR) が高くなります。加熱を止めると (b)、RoRは急速に低下します。ドラム式焙煎機(c) では、ドラムと熱風の両方が豆に熱を伝えます。バーナー (d) を消した後も、ドラムはまだ熱く、豆に熱を伝え続け、さらに焙煎機内の空気は高温の表面から熱を得ることができます。ドラム式焙煎機のRoRは、流動層焙煎機よりゆっくりと低下し、モーメントの錯覚を与えます。


このモーメントは、焙煎機に蓄えられた熱の結果ですが、焙煎機の設計が異なれば、蓄えられる熱の量も異なります。たとえば、流動層焙煎機では、焙煎機内の表面から豆に伝わる熱はほとんどなく、焙煎によって生じるガスは焙煎機内をすばやく動きます。そのため、流動層焙煎機で火を止めると、その後すぐに豆の温度の上昇が止まります。一方、熱エネルギーを多く蓄える重いドラム式焙煎機では、豆の温度とドラムの温度が等しくなるまで、豆の温度は上昇し続けます。


RoRにおけるモーメントの錯覚は、コーヒー豆の有効熱容量の変化によっても影響を受ける可能性があります。焙煎中、豆は質量を失うため、総熱容量が減少します。前のレッスンで説明した内容となりますが、豆の有効比熱も焙煎の後半で減少します。これは、焙煎中に水が蒸発し、豆の発熱反応と吸熱反応のバランスが変化するためです。こういった熱容量の変化によって、同じように熱を加えた場合でも、豆の温度がより速く上昇することがあります。

4.06 終

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