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IM_6.01 ジェズベの歴史
IM 6.01 ジェズベの歴史 ジェズベは世界で最も古いコーヒーの抽出方法と言われています。そのデザインと抽出方法は何世紀にも渡って実質的には変わっていません。ジェズベはコーヒーを加熱するために砂を利用していて、この加熱方法はイスラムの化学者にも広く知られている方法です。ジェズベが発明される以前は、コーヒーは今とは全く異なる飲み物でした。コーヒーの木は6世紀の早期にアラビア半島に渡った可能性があるとされています。イエメンを征服後、50年間に及びイエメンを支配したエチオピア人によってもたらされたとも信じられています(ペンタグラスト、2010)。 15世紀までには、この植物はスーフィーの僧侶たちが毎晩の祈りに欠かせない儀式用の飲み物であるカフアに使用されるようになりました。カフアはコーヒーと密接に関連しており、元々はエチオピア原産の麻薬植物の葉であるカートから作られていました(モリス、2019)。 15世紀の間に、カートはキシルやコーヒーチェリーを乾燥させたカスカラ、焙煎したコーヒー豆を煎じたものへと徐々に代わっていきました。コーヒーを飲むことは、集会や宗教的儀式の中心となり、コーヒーはイスラム世界全体に広がり、1500年代にはエジプトに渡りました。 1516年にオスマン帝国がエジプトを征服した後、兵士たちはこの新しい飲み物をエジプトからトルコへ持ち帰りました。この時代には、コーヒーは今日の「アラビア」または「ペルシャ湾」地域の抽出方法と同様の方法で淹れられていました。コーヒー豆は浅く焙煎され、すり鉢と乳棒で砕き、生姜やシナモン、カルダモンなどのスパイスと混ぜて水と煎じていました。コーヒーを15分間沸騰させるか、最大では1日中水に浸し、濾して、後で飲むために保存されていました(ユーカーズ、1922)。16世紀にトルコでジェズべが発明されたことで、コーヒーをより速く淹れることができるようになりました。伝承によると、この抽出器具はスレイマン1世の厨房の使用人が発明したとされていますが、抽出器具の起源はさておき、この発明によってより深い焙煎とより細かく挽くことの2つの進化が必要になりました。直火に耐えることを目的に作られた陶器または金属製の有孔平板の開発により、トルコではコーヒー豆の焙煎が容易になりました。これらは後に、現代のコーヒー焙煎機の前身である金属の有孔平板を用いた回転式シリンダーに置き換えられていきました(ユーカーズ、1922)。コーヒーをより深く焙煎することで、抽出時間が大幅に短縮でき、コーヒーを非常に細かく挽くことも容易になりました。最初のコーヒーグラインダーもこの時期にトルコで発明されました。元々は小麦を砕くために使用されていたものと同様の石臼を使用しており(シノット、2010)、これによってジェズベでの抽出に必要な非常に細かな挽き目にすることができました。その後、間もなく円筒形の真鍮製ハンドグラインダーがトルコに登場しました。 写真:トルコで作られた円筒形の真鍮製ハンドグラインダー 上述の進歩によって、ジェズベの抽出に不可欠である細挽きが可能になりました。細かく挽かれた粉は、すべての細胞壁が破壊されて剥き出しの状態です。挽かれた後のコーヒー粉の破片中には空隙が残っていないため、粗く挽かれた粉と比べると密度が高くなります。それにより、コーヒーの粉は抽出器具またはカップの底に沈むことになります。同時に、微細な挽き目により露出する表面積が増加するため、迅速かつ濃度のあるコーヒーの抽出が可能になります(クラーク & フィッツトゥーム、2001)。コーヒーを飲む習慣がヨーロッパ諸国に広まったのは、オスマン帝国との接触によるものでした。そのため、焙煎やグラインド、抽出においてトルコの慣行が主流となりました。コーヒーは17世紀に、トルコ大使のスレイマン・アガがパリで開催した豪華なパーティーにより流行となり(ペンタグラスト、 2010)、トルコ軍は1683年にウィーンでの包囲攻撃から撤退したときにコーヒー豆を残していったと言われています(クリフォード、2012) 。このトルコ流の抽出方法はすぐに西ヨーロッパの人達の好みに合うように改良されました。 1711年にフランス人はリネン製のバッグで吊るすことによってコーヒーの粉をろ過することを始め、フランスとウィーンのコーヒーハウスではコーヒーにミルクを混ぜて飲むようになりました。イギリスのコーヒーハウスでは18世紀に入るまで、コーヒーの粉を沸騰させる方法が最も人気のあるコーヒーの淹れ方でしたが、そのポットのデザインは、1692年以降に蓋の無いジェズべスタイルの抽出器具から、よく知られている蓋付きのポットへと革命的な変貌を遂げました(ユーカーズ、1922)。今日、ジェズベは東ヨーロッパと西アジアの国境沿いに位置する国々で広く使用されています。この抽出器具は、東ヨーロッパと西アジアに隣接する地域である地中海、中東、南コーカサスのいたるところに見られますが、その文化によって抽出方法にわずかな違いがあります(クラーク & フィッツトゥーム、2001)。一部の国では、ジェズべはイブリックまたはブリキと呼ばれ、抽出方法は「トルココーヒー」または「ギリシャコーヒー」と呼ばれる場合があります。ですが、トルコでは「イブリック」という言葉は、抽出器具の名称ではなく、コーヒーを提供する用の装飾されてるピッチャーを指します。 写真:トルコでは「イブリック」という言葉は、コーヒーやお茶を提供するために使用されるこのようなピッチャーを指します。 北ヨーロッパや、西ヨーロッパ、南北アメリカ、オーストラリアなどのコーヒー文化にとって、ジェズべは非常に珍しい抽出器具です。ジェズべを一般的に使用する国から来た移民たちを除いて、これらの国ではコーヒーを沸騰させる工程を含む抽出方法のほとんどは、フィルターを用いるかエスプレッソドリンクに取って代えられています。 2011年のワールドジェズベ/イブリックチャンピオンシップの設立を機にジェズベの国際的な知名度を高めましたが、スペシャルティコーヒーのコミュニティによって新たに発見できることは、まだ沢山ありそうです。 イラスト:17世紀のトルコのコーヒーハウス 6.01 終
IM_6.01 ジェズベの歴史
IM 6.01 ジェズベの歴史 ジェズベは世界で最も古いコーヒーの抽出方法と言われています。そのデザインと抽出方法は何世紀にも渡って実質的には変わっていません。ジェズベはコーヒーを加熱するために砂を利用していて、この加熱方法はイスラムの化学者にも広く知られている方法です。ジェズベが発明される以前は、コーヒーは今とは全く異なる飲み物でした。コーヒーの木は6世紀の早期にアラビア半島に渡った可能性があるとされています。イエメンを征服後、50年間に及びイエメンを支配したエチオピア人によってもたらされたとも信じられています(ペンタグラスト、2010)。 15世紀までには、この植物はスーフィーの僧侶たちが毎晩の祈りに欠かせない儀式用の飲み物であるカフアに使用されるようになりました。カフアはコーヒーと密接に関連しており、元々はエチオピア原産の麻薬植物の葉であるカートから作られていました(モリス、2019)。 15世紀の間に、カートはキシルやコーヒーチェリーを乾燥させたカスカラ、焙煎したコーヒー豆を煎じたものへと徐々に代わっていきました。コーヒーを飲むことは、集会や宗教的儀式の中心となり、コーヒーはイスラム世界全体に広がり、1500年代にはエジプトに渡りました。 1516年にオスマン帝国がエジプトを征服した後、兵士たちはこの新しい飲み物をエジプトからトルコへ持ち帰りました。この時代には、コーヒーは今日の「アラビア」または「ペルシャ湾」地域の抽出方法と同様の方法で淹れられていました。コーヒー豆は浅く焙煎され、すり鉢と乳棒で砕き、生姜やシナモン、カルダモンなどのスパイスと混ぜて水と煎じていました。コーヒーを15分間沸騰させるか、最大では1日中水に浸し、濾して、後で飲むために保存されていました(ユーカーズ、1922)。16世紀にトルコでジェズべが発明されたことで、コーヒーをより速く淹れることができるようになりました。伝承によると、この抽出器具はスレイマン1世の厨房の使用人が発明したとされていますが、抽出器具の起源はさておき、この発明によってより深い焙煎とより細かく挽くことの2つの進化が必要になりました。直火に耐えることを目的に作られた陶器または金属製の有孔平板の開発により、トルコではコーヒー豆の焙煎が容易になりました。これらは後に、現代のコーヒー焙煎機の前身である金属の有孔平板を用いた回転式シリンダーに置き換えられていきました(ユーカーズ、1922)。コーヒーをより深く焙煎することで、抽出時間が大幅に短縮でき、コーヒーを非常に細かく挽くことも容易になりました。最初のコーヒーグラインダーもこの時期にトルコで発明されました。元々は小麦を砕くために使用されていたものと同様の石臼を使用しており(シノット、2010)、これによってジェズベでの抽出に必要な非常に細かな挽き目にすることができました。その後、間もなく円筒形の真鍮製ハンドグラインダーがトルコに登場しました。 写真:トルコで作られた円筒形の真鍮製ハンドグラインダー 上述の進歩によって、ジェズベの抽出に不可欠である細挽きが可能になりました。細かく挽かれた粉は、すべての細胞壁が破壊されて剥き出しの状態です。挽かれた後のコーヒー粉の破片中には空隙が残っていないため、粗く挽かれた粉と比べると密度が高くなります。それにより、コーヒーの粉は抽出器具またはカップの底に沈むことになります。同時に、微細な挽き目により露出する表面積が増加するため、迅速かつ濃度のあるコーヒーの抽出が可能になります(クラーク & フィッツトゥーム、2001)。コーヒーを飲む習慣がヨーロッパ諸国に広まったのは、オスマン帝国との接触によるものでした。そのため、焙煎やグラインド、抽出においてトルコの慣行が主流となりました。コーヒーは17世紀に、トルコ大使のスレイマン・アガがパリで開催した豪華なパーティーにより流行となり(ペンタグラスト、 2010)、トルコ軍は1683年にウィーンでの包囲攻撃から撤退したときにコーヒー豆を残していったと言われています(クリフォード、2012) 。このトルコ流の抽出方法はすぐに西ヨーロッパの人達の好みに合うように改良されました。 1711年にフランス人はリネン製のバッグで吊るすことによってコーヒーの粉をろ過することを始め、フランスとウィーンのコーヒーハウスではコーヒーにミルクを混ぜて飲むようになりました。イギリスのコーヒーハウスでは18世紀に入るまで、コーヒーの粉を沸騰させる方法が最も人気のあるコーヒーの淹れ方でしたが、そのポットのデザインは、1692年以降に蓋の無いジェズべスタイルの抽出器具から、よく知られている蓋付きのポットへと革命的な変貌を遂げました(ユーカーズ、1922)。今日、ジェズベは東ヨーロッパと西アジアの国境沿いに位置する国々で広く使用されています。この抽出器具は、東ヨーロッパと西アジアに隣接する地域である地中海、中東、南コーカサスのいたるところに見られますが、その文化によって抽出方法にわずかな違いがあります(クラーク & フィッツトゥーム、2001)。一部の国では、ジェズべはイブリックまたはブリキと呼ばれ、抽出方法は「トルココーヒー」または「ギリシャコーヒー」と呼ばれる場合があります。ですが、トルコでは「イブリック」という言葉は、抽出器具の名称ではなく、コーヒーを提供する用の装飾されてるピッチャーを指します。 写真:トルコでは「イブリック」という言葉は、コーヒーやお茶を提供するために使用されるこのようなピッチャーを指します。 北ヨーロッパや、西ヨーロッパ、南北アメリカ、オーストラリアなどのコーヒー文化にとって、ジェズべは非常に珍しい抽出器具です。ジェズべを一般的に使用する国から来た移民たちを除いて、これらの国ではコーヒーを沸騰させる工程を含む抽出方法のほとんどは、フィルターを用いるかエスプレッソドリンクに取って代えられています。 2011年のワールドジェズベ/イブリックチャンピオンシップの設立を機にジェズベの国際的な知名度を高めましたが、スペシャルティコーヒーのコミュニティによって新たに発見できることは、まだ沢山ありそうです。 イラスト:17世紀のトルコのコーヒーハウス 6.01 終
IM_5.03 ウォーターファースト or コーヒーファースト?
IM 5.03 ウォーターファースト or コーヒーファースト? スティープ・アンド・リリース抽出器具の面白い機能の1つは、抽出器具に水を加えてからコーヒーの粉を入れて抽出するという、通常のアプローチとは逆の順序にすることも可能な点です。このアプローチは、イブリックやジャグコーヒーなどの抽出方法でも非常に効果的です。このアプローチが抽出温度や収率などの変数にどの程度影響するかをよりよく理解するために、バリスタトレーナーのダイアナ・ドレーシー氏とグウィリム・デイビス氏がいくつか実験を行いました。 写真:最初にコーヒーの粉、次に水まず両氏は、前のレッスンで取り上げたジェシカ・サルティアーニ氏の抽出レシピに基づいて、比較用の抽出液を準備しました。彼らはエチオピアのSuke Qutoウォッシングステーションのハニープロセスのコーヒーを使用しました。8日前にフィルターローストとして浅めに焙煎された豆です。レシピ粉量:18 g水:250 g湯温:93°C 1:30でクラストをブレイクします。 そこから2分後(3:30)に、クレバードリッパーのバルブを開いてドローダウンを開始させます。 3種の比較用コーヒーのドローダウン時間とTDS測定値 異なる3つのコーヒーファストの温度プロファイル、プローブはコーヒーの粉の内部(クレバードリッパーの底) 異なる3つのコーヒーファストの温度プロファイル、プローブはスラリーの中(クレバードリッパーの水面近く) 次に、ダイアナとグウィリムは、コーヒーの粉を加える前に、クレバードリッパーに水を注ぎました。 写真:最初に水、次にコーヒーの粉 これは、ウォーターファーストのドローダウン時間とTDS測定値になります。 異なる3つのウォーターファーストの温度プロファイル。実験結果 ウォーターファーストアプローチの平均ドローダウン速度は、コーヒーファーストと比べはるかに速かったです。コーヒーファーストアプローチは、ドローダウンに39%長くかかりました。 コーヒーファーストの温度プロファイルは、最初は高温になりましたが、急速に低下しました。ウォーターファーストの温度プロファイルはより安定していましたが、それほど熱くなりませんでした。ウォーターファーストの抽出では、最初に高い温度にしておいた方が良いかもしれません。 グウィリム氏は、コーヒーファーストの抽出はより苦い味がしたとコメントしています。コーヒーファーストの抽出物の収率は、ウォーターファーストの抽出物よりも10%以上高くなりました。 5.03 終
IM_5.03 ウォーターファースト or コーヒーファースト?
IM 5.03 ウォーターファースト or コーヒーファースト? スティープ・アンド・リリース抽出器具の面白い機能の1つは、抽出器具に水を加えてからコーヒーの粉を入れて抽出するという、通常のアプローチとは逆の順序にすることも可能な点です。このアプローチは、イブリックやジャグコーヒーなどの抽出方法でも非常に効果的です。このアプローチが抽出温度や収率などの変数にどの程度影響するかをよりよく理解するために、バリスタトレーナーのダイアナ・ドレーシー氏とグウィリム・デイビス氏がいくつか実験を行いました。 写真:最初にコーヒーの粉、次に水まず両氏は、前のレッスンで取り上げたジェシカ・サルティアーニ氏の抽出レシピに基づいて、比較用の抽出液を準備しました。彼らはエチオピアのSuke Qutoウォッシングステーションのハニープロセスのコーヒーを使用しました。8日前にフィルターローストとして浅めに焙煎された豆です。レシピ粉量:18 g水:250 g湯温:93°C 1:30でクラストをブレイクします。 そこから2分後(3:30)に、クレバードリッパーのバルブを開いてドローダウンを開始させます。 3種の比較用コーヒーのドローダウン時間とTDS測定値 異なる3つのコーヒーファストの温度プロファイル、プローブはコーヒーの粉の内部(クレバードリッパーの底) 異なる3つのコーヒーファストの温度プロファイル、プローブはスラリーの中(クレバードリッパーの水面近く) 次に、ダイアナとグウィリムは、コーヒーの粉を加える前に、クレバードリッパーに水を注ぎました。 写真:最初に水、次にコーヒーの粉 これは、ウォーターファーストのドローダウン時間とTDS測定値になります。 異なる3つのウォーターファーストの温度プロファイル。実験結果 ウォーターファーストアプローチの平均ドローダウン速度は、コーヒーファーストと比べはるかに速かったです。コーヒーファーストアプローチは、ドローダウンに39%長くかかりました。 コーヒーファーストの温度プロファイルは、最初は高温になりましたが、急速に低下しました。ウォーターファーストの温度プロファイルはより安定していましたが、それほど熱くなりませんでした。ウォーターファーストの抽出では、最初に高い温度にしておいた方が良いかもしれません。 グウィリム氏は、コーヒーファーストの抽出はより苦い味がしたとコメントしています。コーヒーファーストの抽出物の収率は、ウォーターファーストの抽出物よりも10%以上高くなりました。 5.03 終
IM_4.01 エアロプレス
IM 4.01 エアロプレス 歴史 2005年5月18日に、アドラー氏が特許を出願したエアロプレスのデザイン。 エアロプレスは、2005年にデザイナーのアラン・アドラー氏によって発明されました。当時、アドラー氏はおもちゃ会社Aerobieの社長でした。Aerobie社のフライングリングは、「スロー有りの尾部のない物体の最も長い飛行距離」で世界記録を保持していました(この見事な世界記録は、後にブーメランスローによって塗り替えられました)。その後エアロプレスの材料の組成は変更されましたが(現在はポリプロピレンで作られています)、形状と構造は元の設計からほぼ変更されていません。 2008年、コーヒーロースターのティム・ウェンデルボー氏とティム・バーニー氏は、エアロプレスで最も美味しいコーヒーを淹れることができる人を決めるカジュアルなエアロプレスの大会をオスロで開催しました。彼らはこのイベントをワールドエアロプレスチャンピオンシップ(World AeroPress Championship)と名付けました。それ以来、このエアロプレスイベントはファン主導で世界的な開催規模になりました。 2019年には約65か国で国内大会が開催され、第12回世界エアロプレス選手権がロンドンで開催されています。 4.01 終
IM_4.01 エアロプレス
IM 4.01 エアロプレス 歴史 2005年5月18日に、アドラー氏が特許を出願したエアロプレスのデザイン。 エアロプレスは、2005年にデザイナーのアラン・アドラー氏によって発明されました。当時、アドラー氏はおもちゃ会社Aerobieの社長でした。Aerobie社のフライングリングは、「スロー有りの尾部のない物体の最も長い飛行距離」で世界記録を保持していました(この見事な世界記録は、後にブーメランスローによって塗り替えられました)。その後エアロプレスの材料の組成は変更されましたが(現在はポリプロピレンで作られています)、形状と構造は元の設計からほぼ変更されていません。 2008年、コーヒーロースターのティム・ウェンデルボー氏とティム・バーニー氏は、エアロプレスで最も美味しいコーヒーを淹れることができる人を決めるカジュアルなエアロプレスの大会をオスロで開催しました。彼らはこのイベントをワールドエアロプレスチャンピオンシップ(World AeroPress Championship)と名付けました。それ以来、このエアロプレスイベントはファン主導で世界的な開催規模になりました。 2019年には約65か国で国内大会が開催され、第12回世界エアロプレス選手権がロンドンで開催されています。 4.01 終
IM_3.05 ジャグコーヒー
IM 3.05 ジャグコーヒー 「ジャグコーヒー」とは、カッピングと同様の方法で抽出するコーヒー器具のことですが、通常のカッピングよりも抽出する量は多くなります。このコーヒーの淹れ方はフレンチプレスよりも以前からあり、Encyclopedia of Domestic Economy (1855)によると、19世紀半ばにはイギリスで最も一般的なコーヒーの淹れ方とされていました。ジャグとスプーンだけで抽出ができて特別な部品などを必要としないので、ジャグコーヒーはその手軽さから絶大な人気を得ていました。 ジャグコーヒーで注目すべき特徴の1つは、その機能の拡張性の高さです。私たちがジャグコーヒーで淹れた際には1バッチで5リットルもの大量の抽出でき、優れたパフォーマンスを発揮しました。これはハンドドリップで抽出した場合のコーヒーの約20杯分に相当し、かつ1回のハンドドリップの抽出にかかる時間よりも短い時間で抽出できました。ただし大量のお湯を扱うときには火傷の恐れもあるので細心の注意を払ってください。 ジャグコーヒーの抽出量を増やす場合(この原則はフレンチプレスにも当てはまります)や、より大きい容量での抽出は、熱損失がよりゆっくりとなることを覚えておいてください。同じ湯温と抽出比率のとき、使用した湯量だけが異なる3条件のジャグコーヒーの温度推移を下のグラフでは確認できます。 1L注湯したジャグコーヒーの抽出では500mlのものよりも温度低下が遅かったことが分かります。そして250ml注湯された最小容量の抽出において最も速く温度が低下していきました。 注湯量が異なる3つのジャグコーヒーの温度推移を示すグラフ 抽出方法 ジャグコーヒーの抽出方法において推奨する点は、フレンチプレスとほとんど同じです。ただしジャグコーヒーは抽出量を多くすればするほど、抽出中の温度推移の低下が遅くなるため、収率が高くなる傾向があります。これを考慮すると、大量に抽出する際には僅かに粗い挽き目と僅かに低い湯温をレシピに反映すると良いでしょう。 ジャグから抽出したコーヒーをデカントするときは、スラリーを乱さないように、コーヒーをゆっくりとデカントする必要があります。ジャグコーヒーはフレンチプレスと異なり、コーヒーベッドを押さえるためのプランジャーが無いので、注ぐときにはより注意が必要です。コーヒーベッドの上部から粉が溢れないように、最後のカップにコーヒーを注ぐ際には特に注意してください。 ジャグコーヒーの抽出液が空に近づき、ジャグコーヒーの底に沈んでいたコーヒーの粉がギリギリで押し留まっている状態 3.05 終
IM_3.05 ジャグコーヒー
IM 3.05 ジャグコーヒー 「ジャグコーヒー」とは、カッピングと同様の方法で抽出するコーヒー器具のことですが、通常のカッピングよりも抽出する量は多くなります。このコーヒーの淹れ方はフレンチプレスよりも以前からあり、Encyclopedia of Domestic Economy (1855)によると、19世紀半ばにはイギリスで最も一般的なコーヒーの淹れ方とされていました。ジャグとスプーンだけで抽出ができて特別な部品などを必要としないので、ジャグコーヒーはその手軽さから絶大な人気を得ていました。 ジャグコーヒーで注目すべき特徴の1つは、その機能の拡張性の高さです。私たちがジャグコーヒーで淹れた際には1バッチで5リットルもの大量の抽出でき、優れたパフォーマンスを発揮しました。これはハンドドリップで抽出した場合のコーヒーの約20杯分に相当し、かつ1回のハンドドリップの抽出にかかる時間よりも短い時間で抽出できました。ただし大量のお湯を扱うときには火傷の恐れもあるので細心の注意を払ってください。 ジャグコーヒーの抽出量を増やす場合(この原則はフレンチプレスにも当てはまります)や、より大きい容量での抽出は、熱損失がよりゆっくりとなることを覚えておいてください。同じ湯温と抽出比率のとき、使用した湯量だけが異なる3条件のジャグコーヒーの温度推移を下のグラフでは確認できます。 1L注湯したジャグコーヒーの抽出では500mlのものよりも温度低下が遅かったことが分かります。そして250ml注湯された最小容量の抽出において最も速く温度が低下していきました。 注湯量が異なる3つのジャグコーヒーの温度推移を示すグラフ 抽出方法 ジャグコーヒーの抽出方法において推奨する点は、フレンチプレスとほとんど同じです。ただしジャグコーヒーは抽出量を多くすればするほど、抽出中の温度推移の低下が遅くなるため、収率が高くなる傾向があります。これを考慮すると、大量に抽出する際には僅かに粗い挽き目と僅かに低い湯温をレシピに反映すると良いでしょう。 ジャグから抽出したコーヒーをデカントするときは、スラリーを乱さないように、コーヒーをゆっくりとデカントする必要があります。ジャグコーヒーはフレンチプレスと異なり、コーヒーベッドを押さえるためのプランジャーが無いので、注ぐときにはより注意が必要です。コーヒーベッドの上部から粉が溢れないように、最後のカップにコーヒーを注ぐ際には特に注意してください。 ジャグコーヒーの抽出液が空に近づき、ジャグコーヒーの底に沈んでいたコーヒーの粉がギリギリで押し留まっている状態 3.05 終
IM_2.04 温度と時間の分析
IM 2.04 温度と時間の分析 フレンチプレスやカッピングボウルの底にコーヒーの粉を長時間浸すことは、抽出にあまり良くないともしかしたら思っているかもしれません。ですが、スティーブンアボット教授によって開発されたバリスタハッスルの成分抽出アプリ(現在海外版のみ、国内版の開発も検討中)のグラフ(下)は、そうとは限らないことを示唆しています。ご覧のとおり、フレンチプレスでは8分後に予想される収率は非常に低いです。フレンチプレスやカッピングなどの静的浸漬法は、長い抽出時間と非常に高い抽出温度とを組み合わせた場合に、他の抽出方法よりも過抽出による影響を受けにくくなっています。たとえばコーヒーを10分間煮立たせると、かなりの過抽出によるフレーバーが生じますが、一方フレンチプレスやカッピングでは、抽出時間が進むにつれて抽出温度は低下するため、過抽出が起こりづらくなります。 このアプリは、スティーブンアボット教授によって開発されたものです。科学的な実験の結果とモデルを使用して、コーヒー抽出における様々な変数が収率と成分にどのように影響するかを予測できます。このアプリのすべての機能の詳細な説明については、アドバンスエスプレッソコースでもご紹介しています。 さまざまな浸漬法の一般的な抽出レシピを見ていきましょう。 イブリックやサイフォンなど、より多くの乱流を伴う浸漬法では、抽出に必要な時間が短くなります。フレンチプレスなどの静的浸漬法は、抽出にはより長くの時間が必要となります。たとえば、ジェズべはサンドヒーターで2分強で抽出できますが、フレンチプレスでは4分未満でプレスされることは多くないでしょう。 この抽出レシピと同じくらい古い1855年に印刷されたThe Encyclopedia of Domestic Economyによる抽出レシピでも、著者はコーヒーを長い時間沸騰させないようにと注意を促しています。 「コーヒーの一番良い成分はすぐに抽出されるので、長時間沸騰させると上質なアロマとフレーバーが失われてしまいます。コーヒーは沸騰させるのではなく、沸騰しそうなところまで温度を上げるだけでよいというルールを提唱する人もいます。」(ウェブスター & パークス、1855) 抽出温度と時間がもたらす味への影響 コーヒー中のすべての成分は異なる溶解度を持っています。たとえば、塩、糖、酸、フェノール類、脂質が水に溶けるために必要な時間も様々です。すぐに溶けるものもあれば、時間がかかるものもあります。抽出温度と接触時間を変えるとコーヒー粉中のどの成分が水に溶けるかも変わるので、コーヒーを淹れるときにはその点を考慮する必要があります。 コーヒーの苦味の由来となる化合物は、極性の低い(水に溶けにくい)ものが大部分を占めています。そして極性の低い分子を溶解するには、一般的には抽出温度を高くする必要があります。そのため、沸騰したお湯で長時間抽出することは、コーヒーに苦味をもたらします。場合によっては、非極性のフレーバー化合物が水に溶けずに油に溶けることがあります。エスプレッソ抽出では温度が高いほど、極性の高いまたは揮発性の高い化合物よりも、極性の低いアロマ分子の抽出速度により大きな影響を与えることが示されています(サンチェス・ロペスら、2016)。 より多くの油分によりコーヒースラリーから抽出されるとき、コーヒー中の油分がより多くの非極性化合物を溶解している可能性があります。より多くの油分を得る抽出方法で抽出されたコーヒーは、揮発性も極性の低い化合物の割合が高くなります。 サンチェス・ロペス氏は、高温で抽出される低極性分子をいくつか特定しました。特定された低極性分子の中には、スパイシーでスモーキーな香りに関連するフラン、そして「ロースト香」の重要な構成要素の1つであり、苦味、収斂性、焦げた風味に関連するピリジンが含まれていました。 非常に極性の高い水溶性の分子は、水がそれほど熱くなくても、比較的簡単に水に溶けることができます。最初に溶けやすいコーヒーの要素は、フルーツ酸類と有機塩類(軽く、明るく、フルーティーなフレーバー)であり、焙煎中に起こるメイラード反応と糖の褐変から生成される芳香族化合物(ナッツ、キャラメル、バニラ、チョコレート、バターなど)がそれに続きます。コーヒーを飲む人の中には苦い味を好まない人もいるため、低めの温度で短時間で抽出する方法もかなり魅力的に思われますが、残念ながら低い温度での抽出は、多くの場合に甘さと複雑さをも犠牲にしています。 低すぎる温度で抽出すると、酸味のバランスが崩れる傾向があり、アロマと苦味もありません。もちろん過度の苦味は望ましくありませんが、コーヒーに苦味がないことにより複雑さが欠如する傾向もあります(メスタ、グラバスニア、およびジュリアーノ、2016)。 2.04 終
IM_2.04 温度と時間の分析
IM 2.04 温度と時間の分析 フレンチプレスやカッピングボウルの底にコーヒーの粉を長時間浸すことは、抽出にあまり良くないともしかしたら思っているかもしれません。ですが、スティーブンアボット教授によって開発されたバリスタハッスルの成分抽出アプリ(現在海外版のみ、国内版の開発も検討中)のグラフ(下)は、そうとは限らないことを示唆しています。ご覧のとおり、フレンチプレスでは8分後に予想される収率は非常に低いです。フレンチプレスやカッピングなどの静的浸漬法は、長い抽出時間と非常に高い抽出温度とを組み合わせた場合に、他の抽出方法よりも過抽出による影響を受けにくくなっています。たとえばコーヒーを10分間煮立たせると、かなりの過抽出によるフレーバーが生じますが、一方フレンチプレスやカッピングでは、抽出時間が進むにつれて抽出温度は低下するため、過抽出が起こりづらくなります。 このアプリは、スティーブンアボット教授によって開発されたものです。科学的な実験の結果とモデルを使用して、コーヒー抽出における様々な変数が収率と成分にどのように影響するかを予測できます。このアプリのすべての機能の詳細な説明については、アドバンスエスプレッソコースでもご紹介しています。 さまざまな浸漬法の一般的な抽出レシピを見ていきましょう。 イブリックやサイフォンなど、より多くの乱流を伴う浸漬法では、抽出に必要な時間が短くなります。フレンチプレスなどの静的浸漬法は、抽出にはより長くの時間が必要となります。たとえば、ジェズべはサンドヒーターで2分強で抽出できますが、フレンチプレスでは4分未満でプレスされることは多くないでしょう。 この抽出レシピと同じくらい古い1855年に印刷されたThe Encyclopedia of Domestic Economyによる抽出レシピでも、著者はコーヒーを長い時間沸騰させないようにと注意を促しています。 「コーヒーの一番良い成分はすぐに抽出されるので、長時間沸騰させると上質なアロマとフレーバーが失われてしまいます。コーヒーは沸騰させるのではなく、沸騰しそうなところまで温度を上げるだけでよいというルールを提唱する人もいます。」(ウェブスター & パークス、1855) 抽出温度と時間がもたらす味への影響 コーヒー中のすべての成分は異なる溶解度を持っています。たとえば、塩、糖、酸、フェノール類、脂質が水に溶けるために必要な時間も様々です。すぐに溶けるものもあれば、時間がかかるものもあります。抽出温度と接触時間を変えるとコーヒー粉中のどの成分が水に溶けるかも変わるので、コーヒーを淹れるときにはその点を考慮する必要があります。 コーヒーの苦味の由来となる化合物は、極性の低い(水に溶けにくい)ものが大部分を占めています。そして極性の低い分子を溶解するには、一般的には抽出温度を高くする必要があります。そのため、沸騰したお湯で長時間抽出することは、コーヒーに苦味をもたらします。場合によっては、非極性のフレーバー化合物が水に溶けずに油に溶けることがあります。エスプレッソ抽出では温度が高いほど、極性の高いまたは揮発性の高い化合物よりも、極性の低いアロマ分子の抽出速度により大きな影響を与えることが示されています(サンチェス・ロペスら、2016)。 より多くの油分によりコーヒースラリーから抽出されるとき、コーヒー中の油分がより多くの非極性化合物を溶解している可能性があります。より多くの油分を得る抽出方法で抽出されたコーヒーは、揮発性も極性の低い化合物の割合が高くなります。 サンチェス・ロペス氏は、高温で抽出される低極性分子をいくつか特定しました。特定された低極性分子の中には、スパイシーでスモーキーな香りに関連するフラン、そして「ロースト香」の重要な構成要素の1つであり、苦味、収斂性、焦げた風味に関連するピリジンが含まれていました。 非常に極性の高い水溶性の分子は、水がそれほど熱くなくても、比較的簡単に水に溶けることができます。最初に溶けやすいコーヒーの要素は、フルーツ酸類と有機塩類(軽く、明るく、フルーティーなフレーバー)であり、焙煎中に起こるメイラード反応と糖の褐変から生成される芳香族化合物(ナッツ、キャラメル、バニラ、チョコレート、バターなど)がそれに続きます。コーヒーを飲む人の中には苦い味を好まない人もいるため、低めの温度で短時間で抽出する方法もかなり魅力的に思われますが、残念ながら低い温度での抽出は、多くの場合に甘さと複雑さをも犠牲にしています。 低すぎる温度で抽出すると、酸味のバランスが崩れる傾向があり、アロマと苦味もありません。もちろん過度の苦味は望ましくありませんが、コーヒーに苦味がないことにより複雑さが欠如する傾向もあります(メスタ、グラバスニア、およびジュリアーノ、2016)。 2.04 終
IM_1.02 クラスト
IM 1.02 クラスト 動画:15分間の抽出プロセスにおけるクラストの変化 コーヒーの粉に水を注ぐと、その数秒後からクラストが液面に形成されていきます。このクラストをどう扱うかは、その後の抽出具合にも大きな影響を与えます。 クラストはコーヒー豆が焙煎プロセス中に微多孔質になることで形成されます。焙煎後のコーヒーの細孔は直径が通常20〜50nm(ナノメートル)程度です(シェンカーら、2008)。シェンカー氏の研究による次の写真は、コーヒー豆の一つの細胞内に含まれる何千もの細孔を写したものです。 画像:この画像のコーヒー豆は非常に深く焙煎されたもので、細胞壁の個々の細孔から油が染み出ているのが見られます。 (出典:シェンカーら、2008) コーヒー豆の細孔の中まで浸漬されてカップの底へ沈降するのに十分な密度になるまでは、この微多孔質の構造によってコーヒー粒子は短時間ながら水に浮くことができます。一番大きいサイズの粒子に水が浸透するには時間がかかるため、粒子が大きいほど浮力を維持できる時間が長くなります。コーヒーの粉に水を注いだ後、たとえすべてのコーヒーの粉の表面を水でうまく囲むことができたとしても、大量の大きい粒子が水の表面に浮き上がります。この現象はコーヒー豆を使った簡単な実験で観察することができます。高品質の生豆(未焙煎)は水に浸すと沈みます。しかし焙煎したコーヒー豆は、24時間以上水面に置いたままにしても、水面下に沈むことはありません。これは、豆の破裂していない細胞の内部や微多孔質構造中に大量のガスが閉じ込められているためです。 フレンチプレスなど多くの浸漬法では粗く挽かれることが多く、その際の一般的な挽き目の設定では、グラインダーの刃と刃の間に約800um(マイクロメートル)の隙間があります。これは1つのコーヒー粒子の中には、破裂していない細胞の層が多く存在している可能性があり、水が完全に浸透するまでには時間を要するということを意味します。浮かび上がるのはクラスト内の大きい塊だけではありません。クラスト内のガスによる気泡(主に二酸化炭素で構成されている)の膜は、微粉などの細かなコーヒー粒子を多く保持しています。 コーヒー豆の細胞壁は焙煎の過程で乾燥して膨張していき、その特性を失います。コーヒー豆は焙煎中にそのサイズが2倍になることにより、コーヒーの粉の中まで水が浸透しやすくなります。最終的にはコーヒーの粉の細孔内部からも水が溢れ出しますが、微粒子(微粉)の場合はこのプロセスがはるかに速く起こります。微粉は浮力をより失いやすいので、塊(大きな粒子)よりも早くカッピングボウルの底に沈みやすくなります 。 1.02 終
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IM 1.02 クラスト 動画:15分間の抽出プロセスにおけるクラストの変化 コーヒーの粉に水を注ぐと、その数秒後からクラストが液面に形成されていきます。このクラストをどう扱うかは、その後の抽出具合にも大きな影響を与えます。 クラストはコーヒー豆が焙煎プロセス中に微多孔質になることで形成されます。焙煎後のコーヒーの細孔は直径が通常20〜50nm(ナノメートル)程度です(シェンカーら、2008)。シェンカー氏の研究による次の写真は、コーヒー豆の一つの細胞内に含まれる何千もの細孔を写したものです。 画像:この画像のコーヒー豆は非常に深く焙煎されたもので、細胞壁の個々の細孔から油が染み出ているのが見られます。 (出典:シェンカーら、2008) コーヒー豆の細孔の中まで浸漬されてカップの底へ沈降するのに十分な密度になるまでは、この微多孔質の構造によってコーヒー粒子は短時間ながら水に浮くことができます。一番大きいサイズの粒子に水が浸透するには時間がかかるため、粒子が大きいほど浮力を維持できる時間が長くなります。コーヒーの粉に水を注いだ後、たとえすべてのコーヒーの粉の表面を水でうまく囲むことができたとしても、大量の大きい粒子が水の表面に浮き上がります。この現象はコーヒー豆を使った簡単な実験で観察することができます。高品質の生豆(未焙煎)は水に浸すと沈みます。しかし焙煎したコーヒー豆は、24時間以上水面に置いたままにしても、水面下に沈むことはありません。これは、豆の破裂していない細胞の内部や微多孔質構造中に大量のガスが閉じ込められているためです。 フレンチプレスなど多くの浸漬法では粗く挽かれることが多く、その際の一般的な挽き目の設定では、グラインダーの刃と刃の間に約800um(マイクロメートル)の隙間があります。これは1つのコーヒー粒子の中には、破裂していない細胞の層が多く存在している可能性があり、水が完全に浸透するまでには時間を要するということを意味します。浮かび上がるのはクラスト内の大きい塊だけではありません。クラスト内のガスによる気泡(主に二酸化炭素で構成されている)の膜は、微粉などの細かなコーヒー粒子を多く保持しています。 コーヒー豆の細胞壁は焙煎の過程で乾燥して膨張していき、その特性を失います。コーヒー豆は焙煎中にそのサイズが2倍になることにより、コーヒーの粉の中まで水が浸透しやすくなります。最終的にはコーヒーの粉の細孔内部からも水が溢れ出しますが、微粒子(微粉)の場合はこのプロセスがはるかに速く起こります。微粉は浮力をより失いやすいので、塊(大きな粒子)よりも早くカッピングボウルの底に沈みやすくなります 。 1.02 終