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エスプレッソマシンコース4章「 家庭用エスプレッソマシンの革命」

スケイス氏、シェクター氏、そしてショーマー氏 インターネットの登場によって、バリスタたちは自分たちの考えを共有し、大手メーカーに対してより強い影響力を持つことができるようになりました。2001年初頭、一連の出来事がエスプレッソマシンを現代の新しい時代へと押し進めるきっかけとなります。それ以前の100年間、アメリカのコーヒーマシン市場は、ヨーロッパの古い設計を盗用し、それをあたかもオリジナルであるかのように売り出すことで成り立っていました(Maltoni and Carli 2020)。ですが2001年以降、その不均衡が正され始めました。 予想通り、ワールドワイドウェブ(インターネット)の登場は、アメリカの製造業に革新をもたらしました。ですが意外なことに、ホームバリスタたちが、エスプレッソマシンを21世紀へと進化させるうえで中心的な役割を果たしたのです。2000年代初頭、「alt.coffee」というフォーラムは、コーヒー好きの人々にとっての拠点となりました。このフォーラムの利用者であり、カナダ・バリスタ・インスティテュートの共同創設者であるレス・クアン氏はこう語っています。 「サードウェーブ・スペシャルティコーヒーの原点は、まさにこのフォーラムだったんです。ごく短期間のうちに、情報やアイデアをみんなで共有し、実際に試して検証するようなコミュニティが自然に生まれました。そうすることで、根拠のない神話のような情報はすぐに見抜かれ、本当に有効で実用的な知識だけが残りました。そのおかげで、みんなが無駄な時間を過ごさずに済んだんです。」 フォーラムで特に多く議論されたテーマのひとつは、テクノロジーとDIY精神を活用して、エスプレッソ抽出における熱の安定性をいかに高めるかという問題でした。 ショーマー氏 ワシントン州シアトルのデイヴィッド・ショーマー氏は、ラテアートにおける「ロゼッタ」の生みの親として広く知られており、「カフェラテアート(caffe latte art)」という言葉を最初に使った人物でもあります。1990年代後半、ショーマー氏はラ・マルゾッコ社と関係を築き、同社から試作実験のためのスペースを提供されていました(Bernson 2015)。ショーマーは、エスプレッソにおいて最も重要なのは圧力ではなく「湯温」だとはっきり主張していました。彼はその理論を、1990年代に雑誌Café Oléのコラムや、1996年に出版された著書『Espresso Coffee: Professional Techniques』の中で発表しています。 ショーマー氏は、伝統的なエスプレッソマシンメーカーが温度安定性を実現できていないことを、非常に強い口調で非難しました。彼の考える理想の温度安定性とは、ショットごとの温度変化が±0.5℃以内に収まることでした。雑誌Café Oléの中で彼は次のように書いています: 「39ドルのMr.Coffeeのほうが、1万ドルもするこれらのマシンより温度が安定している。恥ずかしい話だ。メーカーは恥じるべきだ。」 シェクター氏 アンディ・シェクター氏がこのあとのインタビューで語っているように、ショーマー氏の本は「alt.coffee」フォーラムの多くのユーザーに、エスプレッソにおける温度安定性の重要性を強く印象づけました。インターネットがコーヒーの革新を後押ししていたちょうどその頃、「発酵」に関する分野にも勢いが生まれていました。発酵の専門家の一人がアンディ・シェクター氏で、1990年代にはニューヨーク州北部にある高品質な豆腐を製造している工場で技術者として働いていました。この次のレッスンでのインタビューでアンディ本人が語っているように、豆腐業界では1990年代からすでにPID技術(比例・積分・微分制御)が使われていました。そして2001年2月3日、シェクターは「alt.coffee」フォーラムに、自身のRancilio Silviaという家庭用エスプレッソマシンにPIDコントローラーの取り付けに成功したことを投稿したのです。 スケイス氏 プロダクトデザイナーでありエンジニアでもあるグレッグ・スケイス氏は、「alt.coffee」フォーラムの初期メンバーの一人でした。彼もまた、2001年にアンディ・シェクター氏の投稿からわずか数日後、自宅のエスプレッソマシンにPIDを取り付けて改造した人物です。レス・クアン氏とのインタビューの中で、彼らは「alt.coffee」フォーラムの黎明期や、初期のPID改造の取り組みについて語り合っています。スケイス氏はこう説明しています。 「本当に面白くて革新的な取り組みの多くは、2001年初頭のおよそ4か月間のうちに達成されました。そして、2000年から2004年の間に、PID(比例・積分・微分)制御に関するすべての実験と導入が完了しました。」 ショーマー氏が行っていた「抽出時に出てくるお湯の温度」を測定する方法に刺激を受けたグレッグ・スケイス氏は、マシンの温度管理で本当に重要なのは、グループから出てくるお湯の温度だということに気づきました。スケイス氏の言葉を借りれば、マシンが本当に温度安定しているかどうかを判断するには、 「コーヒーに当たる直前の水の温度を測ることが、最も重要な測定だ。」 2004年、スケイス氏はグループヘッドの温度を測定するためのツール「スケイス・サーモフィルター」を開発しました。これにより、さまざまなエスプレッソマシンの温度性能の優劣が広く知られるようになりました。また彼は、現在もワールド・バリスタ・チャンピオンシップ(WBC)のマシン認証に使われている、マシン評価のためのテストプロトコルも開発しました。 4.01...

エスプレッソマシンコース4章「 家庭用エスプレッソマシンの革命」

スケイス氏、シェクター氏、そしてショーマー氏 インターネットの登場によって、バリスタたちは自分たちの考えを共有し、大手メーカーに対してより強い影響力を持つことができるようになりました。2001年初頭、一連の出来事がエスプレッソマシンを現代の新しい時代へと押し進めるきっかけとなります。それ以前の100年間、アメリカのコーヒーマシン市場は、ヨーロッパの古い設計を盗用し、それをあたかもオリジナルであるかのように売り出すことで成り立っていました(Maltoni and Carli 2020)。ですが2001年以降、その不均衡が正され始めました。 予想通り、ワールドワイドウェブ(インターネット)の登場は、アメリカの製造業に革新をもたらしました。ですが意外なことに、ホームバリスタたちが、エスプレッソマシンを21世紀へと進化させるうえで中心的な役割を果たしたのです。2000年代初頭、「alt.coffee」というフォーラムは、コーヒー好きの人々にとっての拠点となりました。このフォーラムの利用者であり、カナダ・バリスタ・インスティテュートの共同創設者であるレス・クアン氏はこう語っています。 「サードウェーブ・スペシャルティコーヒーの原点は、まさにこのフォーラムだったんです。ごく短期間のうちに、情報やアイデアをみんなで共有し、実際に試して検証するようなコミュニティが自然に生まれました。そうすることで、根拠のない神話のような情報はすぐに見抜かれ、本当に有効で実用的な知識だけが残りました。そのおかげで、みんなが無駄な時間を過ごさずに済んだんです。」 フォーラムで特に多く議論されたテーマのひとつは、テクノロジーとDIY精神を活用して、エスプレッソ抽出における熱の安定性をいかに高めるかという問題でした。 ショーマー氏 ワシントン州シアトルのデイヴィッド・ショーマー氏は、ラテアートにおける「ロゼッタ」の生みの親として広く知られており、「カフェラテアート(caffe latte art)」という言葉を最初に使った人物でもあります。1990年代後半、ショーマー氏はラ・マルゾッコ社と関係を築き、同社から試作実験のためのスペースを提供されていました(Bernson 2015)。ショーマーは、エスプレッソにおいて最も重要なのは圧力ではなく「湯温」だとはっきり主張していました。彼はその理論を、1990年代に雑誌Café Oléのコラムや、1996年に出版された著書『Espresso Coffee: Professional Techniques』の中で発表しています。 ショーマー氏は、伝統的なエスプレッソマシンメーカーが温度安定性を実現できていないことを、非常に強い口調で非難しました。彼の考える理想の温度安定性とは、ショットごとの温度変化が±0.5℃以内に収まることでした。雑誌Café Oléの中で彼は次のように書いています: 「39ドルのMr.Coffeeのほうが、1万ドルもするこれらのマシンより温度が安定している。恥ずかしい話だ。メーカーは恥じるべきだ。」 シェクター氏 アンディ・シェクター氏がこのあとのインタビューで語っているように、ショーマー氏の本は「alt.coffee」フォーラムの多くのユーザーに、エスプレッソにおける温度安定性の重要性を強く印象づけました。インターネットがコーヒーの革新を後押ししていたちょうどその頃、「発酵」に関する分野にも勢いが生まれていました。発酵の専門家の一人がアンディ・シェクター氏で、1990年代にはニューヨーク州北部にある高品質な豆腐を製造している工場で技術者として働いていました。この次のレッスンでのインタビューでアンディ本人が語っているように、豆腐業界では1990年代からすでにPID技術(比例・積分・微分制御)が使われていました。そして2001年2月3日、シェクターは「alt.coffee」フォーラムに、自身のRancilio Silviaという家庭用エスプレッソマシンにPIDコントローラーの取り付けに成功したことを投稿したのです。 スケイス氏 プロダクトデザイナーでありエンジニアでもあるグレッグ・スケイス氏は、「alt.coffee」フォーラムの初期メンバーの一人でした。彼もまた、2001年にアンディ・シェクター氏の投稿からわずか数日後、自宅のエスプレッソマシンにPIDを取り付けて改造した人物です。レス・クアン氏とのインタビューの中で、彼らは「alt.coffee」フォーラムの黎明期や、初期のPID改造の取り組みについて語り合っています。スケイス氏はこう説明しています。 「本当に面白くて革新的な取り組みの多くは、2001年初頭のおよそ4か月間のうちに達成されました。そして、2000年から2004年の間に、PID(比例・積分・微分)制御に関するすべての実験と導入が完了しました。」 ショーマー氏が行っていた「抽出時に出てくるお湯の温度」を測定する方法に刺激を受けたグレッグ・スケイス氏は、マシンの温度管理で本当に重要なのは、グループから出てくるお湯の温度だということに気づきました。スケイス氏の言葉を借りれば、マシンが本当に温度安定しているかどうかを判断するには、 「コーヒーに当たる直前の水の温度を測ることが、最も重要な測定だ。」 2004年、スケイス氏はグループヘッドの温度を測定するためのツール「スケイス・サーモフィルター」を開発しました。これにより、さまざまなエスプレッソマシンの温度性能の優劣が広く知られるようになりました。また彼は、現在もワールド・バリスタ・チャンピオンシップ(WBC)のマシン認証に使われている、マシン評価のためのテストプロトコルも開発しました。 4.01...

エスプレッソマシンコース3章「デュアルボイラー(抽出用とスチーム用)」

  1990年製のデュアルボイラー式 La Marzocco Linea エスプレッソ・コーヒー文化は、1950年代に大きく発展しました。特にイギリスでは、新しいマシンを備えたコーヒーバーが次々に登場し、モダンで洗練された内装とともに、おしゃれで都会的な空間として、贅沢ができなかった戦後の時代を経た若者たちの心をとらえました。そして、カプチーノの人気が高まるにつれ、ミルクを温めるための安定したスチーム圧力の供給源が求められるようになりました。このとき、抽出用のボイラーとスチーム用のボイラーを分けて設けるという発想が、FAEMA社の技術者たちの間で生まれます。実は、彼らは私たちが想像するよりも早い段階で、デュアルボイラー式マシンの開発を試みていたのです。 デュアルボイラー技術の発明についての功績は、しばしば誤って伝えられています。これまでに最も商業的に成功したデュアルボイラー式マシンは、1990年に発売された La Marzocco Lineaです。また、La Marzocco が1970年に発売した GSマシンも、デュアルボイラー設計を採用しており、技術的には大きな進歩でした。ですが、この機種も「最初のデュアルボイラー機」というわけではありません。ここからは、世界で初めて製造されたデュアルボイラー式エスプレッソマシンの歴史と構造について紹介します。 TRRの歴史と構造 1959年、FAEMA社は2つのボイラーを搭載したエスプレッソマシンを発表しました。1つのボイラーはスチームの生成、もう1つは抽出用のお湯の加熱を行います。この設計によって、バリスタは抽出温度とスチーム圧力をそれぞれ独立して調整することが可能になりました。FAEMAはこの新型マシンを、イタリア語で「調整可能な熱加熱」を意味するTermo Riscaldamento Regolato(テルモ・リスカルダメント・レゴラート)と名付け、略してTRRと呼びました。その約1年後、このマシンは独特の丸みを帯びたデザインにちなんで、Tartaruga(タルタルーガ/イタリア語で「カメ」)という愛称で親しまれるようになります。このタルタルーガには、当時としては画期的ないくつもの技術革新が組み込まれていました。次のセクションでは、その構造と仕組みについて詳しく解説します。 こちらは、E61に採用されたヴァレンテのグループヘッド設計に関する特許図面と、それより2年前に開発されたTRRの図面です。 スチームワンド スチームバルブ ホットウォータースピゴット用バルブ ホットウォータースピゴット 抽出ボイラーからスチームボイラーへお湯を送るバルブ:このバルブにより、コーヒーボイラーは自動的にリフィルされます。※このシステムは水道本管に直接接続されています。 スチームボイラー用の圧力計 スチームボイラー用のサイトグラス(水位計) フローリストリクターの調整つまみ 排気バルブとプレインフュージョンバルブ:ほぼE61の排気バルブと同じ仕組みを持っています。プレインフュージョンをパックにかける機能があり、具体的には以下の動作をします。コーヒーの背圧が上がると、小さな空洞が開きます。この小さな空洞が水で満たされる間、一時的に圧力が下がります。圧力が下がっている間に、パックの粉がゆっくりとお湯を吸収します。この時間は数秒程度で、その後にポンプの全圧力がパックにかかります。この仕組みにより、パックが急激な圧力変化によるダメージを受けにくくなり、抽出の質を向上させます。 ポンプ操作用バルブ:E61マシンと同様に、この小さなレバーは3つの位置があります。オフ、インフュージョン(コーヒーベッドに水が流れるが、ポンプは作動しない)、抽出(ポンプをオンにするスイッチを作動させる)。 カップウォーマートレイの上にある小さな赤いノブは、マシンのボイラー上部のパネルの穴を閉じたり開けたりするプレートを動かします。両方のボイラー上の穴が開くと、バリスタはカップを素早く温めることができます。 1959年製TRRの内部図...

エスプレッソマシンコース3章「デュアルボイラー(抽出用とスチーム用)」

  1990年製のデュアルボイラー式 La Marzocco Linea エスプレッソ・コーヒー文化は、1950年代に大きく発展しました。特にイギリスでは、新しいマシンを備えたコーヒーバーが次々に登場し、モダンで洗練された内装とともに、おしゃれで都会的な空間として、贅沢ができなかった戦後の時代を経た若者たちの心をとらえました。そして、カプチーノの人気が高まるにつれ、ミルクを温めるための安定したスチーム圧力の供給源が求められるようになりました。このとき、抽出用のボイラーとスチーム用のボイラーを分けて設けるという発想が、FAEMA社の技術者たちの間で生まれます。実は、彼らは私たちが想像するよりも早い段階で、デュアルボイラー式マシンの開発を試みていたのです。 デュアルボイラー技術の発明についての功績は、しばしば誤って伝えられています。これまでに最も商業的に成功したデュアルボイラー式マシンは、1990年に発売された La Marzocco Lineaです。また、La Marzocco が1970年に発売した GSマシンも、デュアルボイラー設計を採用しており、技術的には大きな進歩でした。ですが、この機種も「最初のデュアルボイラー機」というわけではありません。ここからは、世界で初めて製造されたデュアルボイラー式エスプレッソマシンの歴史と構造について紹介します。 TRRの歴史と構造 1959年、FAEMA社は2つのボイラーを搭載したエスプレッソマシンを発表しました。1つのボイラーはスチームの生成、もう1つは抽出用のお湯の加熱を行います。この設計によって、バリスタは抽出温度とスチーム圧力をそれぞれ独立して調整することが可能になりました。FAEMAはこの新型マシンを、イタリア語で「調整可能な熱加熱」を意味するTermo Riscaldamento Regolato(テルモ・リスカルダメント・レゴラート)と名付け、略してTRRと呼びました。その約1年後、このマシンは独特の丸みを帯びたデザインにちなんで、Tartaruga(タルタルーガ/イタリア語で「カメ」)という愛称で親しまれるようになります。このタルタルーガには、当時としては画期的ないくつもの技術革新が組み込まれていました。次のセクションでは、その構造と仕組みについて詳しく解説します。 こちらは、E61に採用されたヴァレンテのグループヘッド設計に関する特許図面と、それより2年前に開発されたTRRの図面です。 スチームワンド スチームバルブ ホットウォータースピゴット用バルブ ホットウォータースピゴット 抽出ボイラーからスチームボイラーへお湯を送るバルブ:このバルブにより、コーヒーボイラーは自動的にリフィルされます。※このシステムは水道本管に直接接続されています。 スチームボイラー用の圧力計 スチームボイラー用のサイトグラス(水位計) フローリストリクターの調整つまみ 排気バルブとプレインフュージョンバルブ:ほぼE61の排気バルブと同じ仕組みを持っています。プレインフュージョンをパックにかける機能があり、具体的には以下の動作をします。コーヒーの背圧が上がると、小さな空洞が開きます。この小さな空洞が水で満たされる間、一時的に圧力が下がります。圧力が下がっている間に、パックの粉がゆっくりとお湯を吸収します。この時間は数秒程度で、その後にポンプの全圧力がパックにかかります。この仕組みにより、パックが急激な圧力変化によるダメージを受けにくくなり、抽出の質を向上させます。 ポンプ操作用バルブ:E61マシンと同様に、この小さなレバーは3つの位置があります。オフ、インフュージョン(コーヒーベッドに水が流れるが、ポンプは作動しない)、抽出(ポンプをオンにするスイッチを作動させる)。 カップウォーマートレイの上にある小さな赤いノブは、マシンのボイラー上部のパネルの穴を閉じたり開けたりするプレートを動かします。両方のボイラー上の穴が開くと、バリスタはカップを素早く温めることができます。 1959年製TRRの内部図...

エスプレッソマシンコース「 エスプレッソマシンとは?」

エスプレッソマシンと定義されるためにはいくつか特徴があり、一つ目の特徴は「注文を受けてから作る」ことで、一杯分のコーヒーを抽出できることです。これに対して、一般的なコーヒーメーカーはまとめてコーヒーを抽出します。シングルサーブのテクノロジーが登場したのは、20世紀初頭でした。ですが、現代のエスプレッソマシンの前身となる19世紀のコーヒーメーカーの中には、非常に独創的で奇抜、時には危険なものもありました。 「エスプレッソ」という言葉は、皆さんが思っているよりもずっと早く使われていました。1860年代に使われていた「カフェ・エクスプレッソ」という言葉は、現在私たちが呼ぶエスプレッソとは全く異なるコーヒーを指していました。作家でジャーナリストのジョージ・サラ氏が1866年から1867年にかけてローマとヴェネツィアを訪れた際、彼は「カフェ・エクスプレッソ」を、「カフェ・オルディナリオ」のより高価な代替品として紹介しました。サラの説明によれば、1ペニー多く支払うと、カフェ・エクスプレッソへアップグレード可能で、より大きいサイズで濃い美味しいコーヒーに、大きな砂糖の塊が4つ付いてくるというものでした(Sala, 1869)。 「エスプレッソ」という言葉の起源について議論があります。古い資料では、エスプレッソはイタリア語の「esprimere」の過去分詞形で、「押し出す」または「絞り出す」という意味で、ラテン語の「exprimere」に由来するとされています。ですが、以下に示すように、Merriam-Webster's Dictionaryはこの考え方が再考されたことを説明しています。  「このエスプレッソという言葉には、特にイタリアのレストランで使われる際には、「注文を受けてから素早く作られる」という意味があり、ポットで作られるコーヒーとは区別するための可能性があります。また、イタリア語の「esprimere」は確かに「表現する」や「知らしめる」という意味がありますが、初期の解説者たちが主張したように「押す」という意味ではありません。このことが語源学者たちに、エスプレッソとコーヒー豆を押し出すこととの関係を再考させ、その提供方法、つまり「注文に応じて特別に作られるコーヒー」という意味に戻る結果となったのです。」 「注文を受けてから」コーヒーを作るためには、速さが求められます。より速くするための大きな一歩は、コーヒーの粉に水を通して押し出す方法として蒸気圧の導入でした。蒸気圧を使った最初のコーヒーメーカー、つまり一部では最初のエスプレッソマシンと考えられているマシンは、ドイツの医師エラール・レーメルスハウゼンによって1818年ごろに発明されました(Maltoni and Carli 2020) この装置は、現代のモカポット(直火式エスプレッソメーカー)と全く同じ原理で動作します。Römerhausenのデザインは、ボイラーと呼べるものを初めて備えたコーヒーメーカーのようです。ですが、Römerhausenのコーヒーメーカーは現存しておらず、このデザインは商業的な成功を収めることはありませんでした。この装置が十分な強度を持たせるために真鍮で作られていたと推測することはできます。これは、1838年にアレクサンドル・ルブラン氏が開発したコーヒーメーカー(後述)と似たようなものです。 Römerhausenによるコーヒーメーカー、1818年ごろのもの。 Römerhausenのデザインには有望な特徴がありましたが、この19世紀の大ヒットしたコーヒーメーカーは、一度に複数杯作るため、大量の水を加熱する必要があり、非常に遅く動作しました。さらに、水はエタノールを燃料とする小さくて効率の悪いアルコールバーナーによって加熱されていました(Maltoni and Carli 2020)。ロンドンの銅細工職人サミュエル・パーカー氏が1833年に特許を取得したパーカーの蒸気噴水のような装置では、加熱に最大で20分もかかることがありました。Römerhausenとパーカー氏のデザインからわかるように、モカポットの基本的な原理は、1950年代にイタリアの家庭で標準的な存在となった有名な八角形のビアレッティ直火式コーヒーメーカーが登場する130年以上前からすでに使われていたのです。 1833年のパーカーの蒸気噴水コーヒーメーカー パーカー氏の発明は、今日の安全基準を満たしておらず、過剰な圧力を逃がすための安全バルブが一切備わっていませんでした。時間が経つにつれて、この装置は再設計され、ユーザーが下のチャンバーからコーヒーの流れを観察できるようにガラス製の蓋が付けられました。1838年に、4分以内でコーヒーを淹れることができるコーヒーメーカー「ピッコラ」が市場に登場しました(Maltoni and Carli 2020)。このピッコラは、フランスの光学技術者のアレクサンドラ・ルブラン氏によって特許を取得されました。この装置は現代のエスプレッソマシンと多くの共通点を持っています。モカポットの抽出方法では、蒸気圧で熱い水を上に押し上げ、コーヒーの粉を通過させますが、ルブラン氏の装置は水を下に押し下げます。抽出されたコーヒーは、エスプレッソマシンのバスケットと同じように、コーヒー粉の下にある穴の開いたプレートを通ってろ過されます。抽出されたコーヒーは、装置の底にあるパイプを通って流れ出します。このパイプは現代のスチームワンドに非常によく似ており、その部分はコーヒーオイルの残留物が蓄積しやすく、嫌な味を引き起こす傾向がありました。 ルブラン氏によるピッコラコーヒーメーカー(1838年)。冷たい水は装置の上部に注がれ、コーヒーの粉は下部のバスケットに押し込まれ、真鍮製の蓋がブリュワーの本体にしっかりと取り付けられました。おそらく、装置の上部で蒸気圧が十分に高まるまでコーヒーの粉は水で十分に湿らされ、その後、長い出口のスピゴットを通して抽出されたコーヒーが押し出される仕組みだったのでしょう。 19世紀半ばにケロシンが発明され、燃料源として広く採用されました。この革新により、アルコールバーナーの限界がいくつか克服され、準備に要する時間がさらに短縮されました。 0.01 終

エスプレッソマシンコース「 エスプレッソマシンとは?」

エスプレッソマシンと定義されるためにはいくつか特徴があり、一つ目の特徴は「注文を受けてから作る」ことで、一杯分のコーヒーを抽出できることです。これに対して、一般的なコーヒーメーカーはまとめてコーヒーを抽出します。シングルサーブのテクノロジーが登場したのは、20世紀初頭でした。ですが、現代のエスプレッソマシンの前身となる19世紀のコーヒーメーカーの中には、非常に独創的で奇抜、時には危険なものもありました。 「エスプレッソ」という言葉は、皆さんが思っているよりもずっと早く使われていました。1860年代に使われていた「カフェ・エクスプレッソ」という言葉は、現在私たちが呼ぶエスプレッソとは全く異なるコーヒーを指していました。作家でジャーナリストのジョージ・サラ氏が1866年から1867年にかけてローマとヴェネツィアを訪れた際、彼は「カフェ・エクスプレッソ」を、「カフェ・オルディナリオ」のより高価な代替品として紹介しました。サラの説明によれば、1ペニー多く支払うと、カフェ・エクスプレッソへアップグレード可能で、より大きいサイズで濃い美味しいコーヒーに、大きな砂糖の塊が4つ付いてくるというものでした(Sala, 1869)。 「エスプレッソ」という言葉の起源について議論があります。古い資料では、エスプレッソはイタリア語の「esprimere」の過去分詞形で、「押し出す」または「絞り出す」という意味で、ラテン語の「exprimere」に由来するとされています。ですが、以下に示すように、Merriam-Webster's Dictionaryはこの考え方が再考されたことを説明しています。  「このエスプレッソという言葉には、特にイタリアのレストランで使われる際には、「注文を受けてから素早く作られる」という意味があり、ポットで作られるコーヒーとは区別するための可能性があります。また、イタリア語の「esprimere」は確かに「表現する」や「知らしめる」という意味がありますが、初期の解説者たちが主張したように「押す」という意味ではありません。このことが語源学者たちに、エスプレッソとコーヒー豆を押し出すこととの関係を再考させ、その提供方法、つまり「注文に応じて特別に作られるコーヒー」という意味に戻る結果となったのです。」 「注文を受けてから」コーヒーを作るためには、速さが求められます。より速くするための大きな一歩は、コーヒーの粉に水を通して押し出す方法として蒸気圧の導入でした。蒸気圧を使った最初のコーヒーメーカー、つまり一部では最初のエスプレッソマシンと考えられているマシンは、ドイツの医師エラール・レーメルスハウゼンによって1818年ごろに発明されました(Maltoni and Carli 2020) この装置は、現代のモカポット(直火式エスプレッソメーカー)と全く同じ原理で動作します。Römerhausenのデザインは、ボイラーと呼べるものを初めて備えたコーヒーメーカーのようです。ですが、Römerhausenのコーヒーメーカーは現存しておらず、このデザインは商業的な成功を収めることはありませんでした。この装置が十分な強度を持たせるために真鍮で作られていたと推測することはできます。これは、1838年にアレクサンドル・ルブラン氏が開発したコーヒーメーカー(後述)と似たようなものです。 Römerhausenによるコーヒーメーカー、1818年ごろのもの。 Römerhausenのデザインには有望な特徴がありましたが、この19世紀の大ヒットしたコーヒーメーカーは、一度に複数杯作るため、大量の水を加熱する必要があり、非常に遅く動作しました。さらに、水はエタノールを燃料とする小さくて効率の悪いアルコールバーナーによって加熱されていました(Maltoni and Carli 2020)。ロンドンの銅細工職人サミュエル・パーカー氏が1833年に特許を取得したパーカーの蒸気噴水のような装置では、加熱に最大で20分もかかることがありました。Römerhausenとパーカー氏のデザインからわかるように、モカポットの基本的な原理は、1950年代にイタリアの家庭で標準的な存在となった有名な八角形のビアレッティ直火式コーヒーメーカーが登場する130年以上前からすでに使われていたのです。 1833年のパーカーの蒸気噴水コーヒーメーカー パーカー氏の発明は、今日の安全基準を満たしておらず、過剰な圧力を逃がすための安全バルブが一切備わっていませんでした。時間が経つにつれて、この装置は再設計され、ユーザーが下のチャンバーからコーヒーの流れを観察できるようにガラス製の蓋が付けられました。1838年に、4分以内でコーヒーを淹れることができるコーヒーメーカー「ピッコラ」が市場に登場しました(Maltoni and Carli 2020)。このピッコラは、フランスの光学技術者のアレクサンドラ・ルブラン氏によって特許を取得されました。この装置は現代のエスプレッソマシンと多くの共通点を持っています。モカポットの抽出方法では、蒸気圧で熱い水を上に押し上げ、コーヒーの粉を通過させますが、ルブラン氏の装置は水を下に押し下げます。抽出されたコーヒーは、エスプレッソマシンのバスケットと同じように、コーヒー粉の下にある穴の開いたプレートを通ってろ過されます。抽出されたコーヒーは、装置の底にあるパイプを通って流れ出します。このパイプは現代のスチームワンドに非常によく似ており、その部分はコーヒーオイルの残留物が蓄積しやすく、嫌な味を引き起こす傾向がありました。 ルブラン氏によるピッコラコーヒーメーカー(1838年)。冷たい水は装置の上部に注がれ、コーヒーの粉は下部のバスケットに押し込まれ、真鍮製の蓋がブリュワーの本体にしっかりと取り付けられました。おそらく、装置の上部で蒸気圧が十分に高まるまでコーヒーの粉は水で十分に湿らされ、その後、長い出口のスピゴットを通して抽出されたコーヒーが押し出される仕組みだったのでしょう。 19世紀半ばにケロシンが発明され、燃料源として広く採用されました。この革新により、アルコールバーナーの限界がいくつか克服され、準備に要する時間がさらに短縮されました。 0.01 終

エスプレッソマシンコース 1章「 重金属 - 鉛汚染について心配すべきか?」

真鍮の製造には、伝統的にごく少量の鉛が使われます。食品衛生法に適合させるために、一部の製造業者は「 Ternary Eco Alloy (TEA)」と呼ばれる方法などを使って、真鍮の表面にコーティングを施し、水と直接ふれないようにしています。ほかの製造業者は、「鉛フリー」と呼ばれる真鍮に切り替えました。これは鉛の含有量が0.25%未満の真鍮です。「鉛フリー」真鍮では、加工しやすくするために、鉛の代わりにビスマスやシリコンといった添加物が使われることがあります(Choucriら、2019) 鉛フリーの真鍮には最大で0.25%の鉛が含まれているため、水に鉛が少し溶け出すことがあります。もし水に長時間触れていると、溶け出す鉛の量が安全な飲料水に関する法的基準を超える可能性があります(Ng & Lin、2016)。 カフェで提供されるコーヒーから鉛が検出されたという不安をあおる話もありますが、より系統的な研究では、コーヒーによる鉛への曝露はかなり低いことがわかっています(デンマーク環境保護庁、2015)。コーヒーから検出される鉛は、抽出機器ではなくコーヒー豆によるものと考えられています。研究によると、 「どの抽出方法を使っても、コーヒー豆に含まれていた鉛はすべて抽出されたコーヒーに移っていました……。家庭用の抽出機器から鉛が溶け出した形跡は見られませんでした。」 研究者たちはエスプレッソマシンを特別に調べたわけではありませんでしたが、デンマークのカフェで提供されているコーヒーに含まれる鉛の量は、家庭用のコーヒーメーカーで淹れたコーヒーとほぼ同じであることがわかりました。 コーヒーから摂取される鉛の量は、ほかの食べ物などから摂取される鉛の量と比べて少なく、食事全体を通じた鉛の摂取量の中で大きな割合を占めているわけではありません。 鉛の影響が大きいのは、コーヒー以外のものからの摂取である可能性が高いです。たとえば、アメリカでは子どもにとって最も大きな鉛の曝露源は、家庭内のほこりだとされています(アメリカ疾病予防管理センター〈CDC〉、2017)。実際には、使うコーヒーカップによっては、カリフォルニア州が定める鉛の1日最大許容量を超える鉛曝露が起こることさえあります(Andersonら、2017)。 ですがホームバリスタは注意が必要です。ドイツの政府研究プロジェクトでは、家庭用エスプレッソマシンから高いレベルの鉛が溶け出すことが確認されており、特にスケール除去(湯あかの洗浄)を行った後にその傾向が強く見られました(BfR、2013)。最近では、ブルガリアの科学者ナスコ・パノフ氏による研究で、さまざまなマシンからの鉛の汚染レベルが調査されました。パノフ氏は、ボイラーのスケール除去後にもっとも高い鉛濃度が検出されたと報告しています。一方で、抽出用ボイラーから出る鉛の量は、ごくわずかでほとんど無視できる程度でした。 家庭用のマシンは業務用のマシンほど頻繁には使われないため、水が鉛を含む部品と長時間ふれつづけることになり、水に溶け出す鉛の量が増える可能性があります。鉛への曝露を減らすために、研究者たちは使用前にマシン内の水を一度流すことや、スケール除去を行った後はマシンを十分にすすぐことを勧めています。 アルミニウムについてはどうでしょうか? アメリカ版の有名な家庭用コーヒーマシンGaggia Classicには、アルミニウム製のボイラーが使われています。 アルミニウムは、比較的安価で、軽くて強く、さらに熱をよく伝える金属です。熱伝導率は240 W/mK を超えており、ボイラーの素材としては多くの点で理想的だと言えます。ただし、アルミニウムのイオンは体にとって有害であり、体内に取り込まれると毒性があります(Exley、2016)。そのため、アルミニウムが使われる場合には、表面をスチールでコーティングしたり内張りをしたりすることが一般的です。アルミニウムは、主に家庭用マシンの小型ボイラーや、全自動マシンに使われるサーモブロックなどに使われます。特に熱伝導性が求められる場面では、その性質がとても役立ちます(レッスン1.06を参照)。ですがアルミニウムが酸性のコーヒーに直接ふれると、アルミニウムイオンが飲み物の中に溶け出すおそれがあるため、そのような使い方は避けるべきです。 1.02 終

エスプレッソマシンコース 1章「 重金属 - 鉛汚染について心配すべきか?」

真鍮の製造には、伝統的にごく少量の鉛が使われます。食品衛生法に適合させるために、一部の製造業者は「 Ternary Eco Alloy (TEA)」と呼ばれる方法などを使って、真鍮の表面にコーティングを施し、水と直接ふれないようにしています。ほかの製造業者は、「鉛フリー」と呼ばれる真鍮に切り替えました。これは鉛の含有量が0.25%未満の真鍮です。「鉛フリー」真鍮では、加工しやすくするために、鉛の代わりにビスマスやシリコンといった添加物が使われることがあります(Choucriら、2019) 鉛フリーの真鍮には最大で0.25%の鉛が含まれているため、水に鉛が少し溶け出すことがあります。もし水に長時間触れていると、溶け出す鉛の量が安全な飲料水に関する法的基準を超える可能性があります(Ng & Lin、2016)。 カフェで提供されるコーヒーから鉛が検出されたという不安をあおる話もありますが、より系統的な研究では、コーヒーによる鉛への曝露はかなり低いことがわかっています(デンマーク環境保護庁、2015)。コーヒーから検出される鉛は、抽出機器ではなくコーヒー豆によるものと考えられています。研究によると、 「どの抽出方法を使っても、コーヒー豆に含まれていた鉛はすべて抽出されたコーヒーに移っていました……。家庭用の抽出機器から鉛が溶け出した形跡は見られませんでした。」 研究者たちはエスプレッソマシンを特別に調べたわけではありませんでしたが、デンマークのカフェで提供されているコーヒーに含まれる鉛の量は、家庭用のコーヒーメーカーで淹れたコーヒーとほぼ同じであることがわかりました。 コーヒーから摂取される鉛の量は、ほかの食べ物などから摂取される鉛の量と比べて少なく、食事全体を通じた鉛の摂取量の中で大きな割合を占めているわけではありません。 鉛の影響が大きいのは、コーヒー以外のものからの摂取である可能性が高いです。たとえば、アメリカでは子どもにとって最も大きな鉛の曝露源は、家庭内のほこりだとされています(アメリカ疾病予防管理センター〈CDC〉、2017)。実際には、使うコーヒーカップによっては、カリフォルニア州が定める鉛の1日最大許容量を超える鉛曝露が起こることさえあります(Andersonら、2017)。 ですがホームバリスタは注意が必要です。ドイツの政府研究プロジェクトでは、家庭用エスプレッソマシンから高いレベルの鉛が溶け出すことが確認されており、特にスケール除去(湯あかの洗浄)を行った後にその傾向が強く見られました(BfR、2013)。最近では、ブルガリアの科学者ナスコ・パノフ氏による研究で、さまざまなマシンからの鉛の汚染レベルが調査されました。パノフ氏は、ボイラーのスケール除去後にもっとも高い鉛濃度が検出されたと報告しています。一方で、抽出用ボイラーから出る鉛の量は、ごくわずかでほとんど無視できる程度でした。 家庭用のマシンは業務用のマシンほど頻繁には使われないため、水が鉛を含む部品と長時間ふれつづけることになり、水に溶け出す鉛の量が増える可能性があります。鉛への曝露を減らすために、研究者たちは使用前にマシン内の水を一度流すことや、スケール除去を行った後はマシンを十分にすすぐことを勧めています。 アルミニウムについてはどうでしょうか? アメリカ版の有名な家庭用コーヒーマシンGaggia Classicには、アルミニウム製のボイラーが使われています。 アルミニウムは、比較的安価で、軽くて強く、さらに熱をよく伝える金属です。熱伝導率は240 W/mK を超えており、ボイラーの素材としては多くの点で理想的だと言えます。ただし、アルミニウムのイオンは体にとって有害であり、体内に取り込まれると毒性があります(Exley、2016)。そのため、アルミニウムが使われる場合には、表面をスチールでコーティングしたり内張りをしたりすることが一般的です。アルミニウムは、主に家庭用マシンの小型ボイラーや、全自動マシンに使われるサーモブロックなどに使われます。特に熱伝導性が求められる場面では、その性質がとても役立ちます(レッスン1.06を参照)。ですがアルミニウムが酸性のコーヒーに直接ふれると、アルミニウムイオンが飲み物の中に溶け出すおそれがあるため、そのような使い方は避けるべきです。 1.02 終

エスプレッソマシンコース 第2章「プレインフュージョンの誕生」

現代のレバー式マシンがアイドリング状態にあるとき、グループヘッドを常に熱く保つために、サイフォンのように熱湯がピストンの外側を細い帯状に循環する仕組みになっています。このため、ピストンの構成部品には熱伝導性に優れた真鍮が使用されるのが一般的です(サーモサイフォンの仕組みについては次章で詳しく解説します)。一方、ガッジア氏のClassicaモデルでは、サーモサイフォン方式を用いず、ボイラー内の蒸気圧を利用してお湯をグループヘッドまで押し上げていました。とはいえ、旧式の仕組みと現代の仕組みのいずれにおいても、グループヘッドを高温に保つために熱湯が用いられている点は共通しています。 青色の部分は、真鍮製のプランジャー(ピストン)の外側を取り囲む細い帯状の湯の流れを示しています。赤い四角と大きなOリングは、ピストンの外側を水密に密閉するために設計されたシール部分を表しています。 ガッジア氏のマシンでは、バリスタがレバーを引くと、プランジャーが約50mm上方へと移動します。このとき、プランジャーはグループヘッドを取り囲む湯の帯と同じ高さの位置までスライドし、スリーブに空いた穴を通してお湯がコーヒーの粉の上に注がれる仕組みになっています。 グループ内に圧力がかかるのは、コーヒーベッドの上の空間が完全に水で満たされ、プランジャーとコーヒーベッドの上面の間に空気の隙間がなくなってからです。コーヒーパックの上の空間に水が満たされるまで約5秒かかり、さらに5秒かけてコーヒーパックが完全に水を吸収します。つまり、ガッジアのレバー式マシンは10秒間のプレインフュージョンを行っていたことになります。(プレインフュージョンの利点については、Barista Hustleのアドバンスドエスプレッソコースで詳しく学べます。) 安全上の重要な注意事項です。どんな種類のレバー式マシンを操作する場合でも、レバーはしっかりと握ることが非常に重要です。もしレバーが手から滑り落ちると、勢いよく元の位置まで戻り、けがをする恐れがあります。 ガッジア氏のシステムは、11バールを超える圧力を達成することができました。これは20世紀において、コーヒーの粉の抽出中にこれほど高い圧力が安全に実現された初めての例でした。最初のモデルはClassicaと呼ばれ、1948年に発売されました。このマシンは、現在私たちが楽しんでいるものとまったく同じ、濃厚で滑らか、持続するクレマを持ち、豊かなテクスチャーとボディを備えたエスプレッソショットを抽出することができました。 自然な圧力のプロファイル 現代のレバー式マシン(Nuova Simonelli Leva)の圧力プロファイルと、ロータリーポンプを使用する一般的な一定圧のマシン(Nuova Simonelli Aurelia II)の圧力プロファイルの比較。データは G. Caprioli ら(2012年)によるものです。この実験では、バリスタがレバーを引いてから4秒半後にレバーを離しました。レバー式エスプレッソにおいては、プレインフュージョンの時間は4〜10秒の範囲を推奨します。 バリスタがスプリングレバー式マシンのレバーを引くと、内部のスプリングが圧縮され、その状態で固定されます。もしそのままレバーをロックしたままにしておくと、抽出は給水ラインの圧力で始まります。より高い圧力を得るためには、バリスタがレバーを少し持ち上げてスプリングのロックを解除し、スプリングの力でピストンを下へ押し下げる必要があります。 ガッジア氏の洗練されたスプリングレバー設計は、上のグラフで青色の線として示されているような圧力のプロファイルを生み出します。このレバー式の圧力プロファイルは、多くのエスプレッソ用の焙煎と相性が良く、相乗効果を発揮するように思われます。私たちの経験では、レバー式マシンで抽出されたエスプレッソショットは、最新鋭のマシンで淹れたものに劣らず、どれも非常に美味しく仕上がります。 2.05 終

エスプレッソマシンコース 第2章「プレインフュージョンの誕生」

現代のレバー式マシンがアイドリング状態にあるとき、グループヘッドを常に熱く保つために、サイフォンのように熱湯がピストンの外側を細い帯状に循環する仕組みになっています。このため、ピストンの構成部品には熱伝導性に優れた真鍮が使用されるのが一般的です(サーモサイフォンの仕組みについては次章で詳しく解説します)。一方、ガッジア氏のClassicaモデルでは、サーモサイフォン方式を用いず、ボイラー内の蒸気圧を利用してお湯をグループヘッドまで押し上げていました。とはいえ、旧式の仕組みと現代の仕組みのいずれにおいても、グループヘッドを高温に保つために熱湯が用いられている点は共通しています。 青色の部分は、真鍮製のプランジャー(ピストン)の外側を取り囲む細い帯状の湯の流れを示しています。赤い四角と大きなOリングは、ピストンの外側を水密に密閉するために設計されたシール部分を表しています。 ガッジア氏のマシンでは、バリスタがレバーを引くと、プランジャーが約50mm上方へと移動します。このとき、プランジャーはグループヘッドを取り囲む湯の帯と同じ高さの位置までスライドし、スリーブに空いた穴を通してお湯がコーヒーの粉の上に注がれる仕組みになっています。 グループ内に圧力がかかるのは、コーヒーベッドの上の空間が完全に水で満たされ、プランジャーとコーヒーベッドの上面の間に空気の隙間がなくなってからです。コーヒーパックの上の空間に水が満たされるまで約5秒かかり、さらに5秒かけてコーヒーパックが完全に水を吸収します。つまり、ガッジアのレバー式マシンは10秒間のプレインフュージョンを行っていたことになります。(プレインフュージョンの利点については、Barista Hustleのアドバンスドエスプレッソコースで詳しく学べます。) 安全上の重要な注意事項です。どんな種類のレバー式マシンを操作する場合でも、レバーはしっかりと握ることが非常に重要です。もしレバーが手から滑り落ちると、勢いよく元の位置まで戻り、けがをする恐れがあります。 ガッジア氏のシステムは、11バールを超える圧力を達成することができました。これは20世紀において、コーヒーの粉の抽出中にこれほど高い圧力が安全に実現された初めての例でした。最初のモデルはClassicaと呼ばれ、1948年に発売されました。このマシンは、現在私たちが楽しんでいるものとまったく同じ、濃厚で滑らか、持続するクレマを持ち、豊かなテクスチャーとボディを備えたエスプレッソショットを抽出することができました。 自然な圧力のプロファイル 現代のレバー式マシン(Nuova Simonelli Leva)の圧力プロファイルと、ロータリーポンプを使用する一般的な一定圧のマシン(Nuova Simonelli Aurelia II)の圧力プロファイルの比較。データは G. Caprioli ら(2012年)によるものです。この実験では、バリスタがレバーを引いてから4秒半後にレバーを離しました。レバー式エスプレッソにおいては、プレインフュージョンの時間は4〜10秒の範囲を推奨します。 バリスタがスプリングレバー式マシンのレバーを引くと、内部のスプリングが圧縮され、その状態で固定されます。もしそのままレバーをロックしたままにしておくと、抽出は給水ラインの圧力で始まります。より高い圧力を得るためには、バリスタがレバーを少し持ち上げてスプリングのロックを解除し、スプリングの力でピストンを下へ押し下げる必要があります。 ガッジア氏の洗練されたスプリングレバー設計は、上のグラフで青色の線として示されているような圧力のプロファイルを生み出します。このレバー式の圧力プロファイルは、多くのエスプレッソ用の焙煎と相性が良く、相乗効果を発揮するように思われます。私たちの経験では、レバー式マシンで抽出されたエスプレッソショットは、最新鋭のマシンで淹れたものに劣らず、どれも非常に美味しく仕上がります。 2.05 終

ミルクサイエンス2章04

界面活性剤は、2つの物質間の表面張力を下げる化合物です。表面張力とは、液体表面の分子をくっつけようとする力です。これは、水を結合させて水滴を形成するのと同じ力になります。表面張力によって液体が元に戻るため、純水中の気泡はすぐに破裂します。 気泡が破裂しないようにする最善の方法は、気泡を界面活性剤で包み込むことです。泡の化学において、この包み込むプロセスの名称は「吸着作用」と言います。このプロセスでは、物質が別の物質に付着し、その上に膜が形成されます。このプロセスと、ある物質が他の物質と全体的に混ざり合う吸収のプロセスとを混同しないようにしてください。吸着は表面でのみ生じます。コーヒー飲料では、界面活性剤がミルクと空気の間の表面張力を下げるため、泡が破裂しにくくなります。表面張力が低いということは、フォームの弾力性が高いことを意味します。たとえば、液体に囲まれた泡を引き伸ばそうとすると、泡周囲の界面活性剤の濃度が減少します。これにより表面張力が上昇し、多くのエネルギーが必要になります。適切な量の界面活性剤を使用すると、気泡は破裂するのではなく、元のサイズに戻ろうとします。表面張力が低い弾性フォームにより、ラテアーティストは絵柄をより長く持続させながら、より多くの時間をかけてコーヒーにミルクを注ぐことができます。 ミルクフォームの主な界面活性剤は、タンパク質のβ-ラクトグロブリンです。この非常に弾力性のあるホエイプロテインは、他のタンパク質との混濁を招くことなく、非常に長持ちする泡の生成を可能にします。このタンパク質の鍵となるのは「弾力性」です。フォームのそれぞれの細胞が真新しいゴム風船だと想像してみてください。押したり潰したりすると変形ますが、その形状は元に戻ります。ゴムが少し古くなり脆くなってくると、応力に反応できなくなり、破裂してしまいます。このフォームのFoam Elasticity アプリで説明していますが、弾性をコントロールする要因は複雑で、適切な添加剤を数パーセント使用するだけで大きな違いが生じます。そのため私たちが言えることは、丈夫で弾力のある泡を作るために必要なバランスをβ-ラクトグロブリンが持っているということです。 もともと表面張力が低い場合、全体的に必要な界面活性剤の量は少なくなります。平均気泡径が小さいミルクフォームは、通常、より湿っているため、表面張力が低くなります。アボット教授によると、「一般的に、最も低い表面張力に達する最小限の量の界面活性剤は、より長持ちする泡を生成します。たとえば半径が小さいフォームは、排出がゆっくりなため長持ちする傾向があり、濃厚な質感ため望ましいのです。」とのことです。 ミルクの平均気泡直径を小さくすることで、アボット教授によるフォームに関する5つの要素の3番目の要素である経時的な安定性が得られます。こういったフォームの豊かな質感は、4番目の要素である適度な粘度も満たしています。 ミルクフォームの気泡が安定するまでには時間が必要 ミルクをスチームするとき、非常に大きな気泡がいくつか発生しますが、表面を安定させる物質がその泡の周囲を取り囲むには大きすぎるため、こういった大きな気泡はすぐに破裂します。アボット教授は、「主な界面活性剤は…界面に移動するのが比較的遅い(起泡力の弱い)タンパク質ですが、そこに到達すると強力な界面を生成するため、安定した泡が得られます。」と説明しています。 これは、ミルクをスチーミングする初期段階で、望ましくない大きな気泡があるミルクからきめ細かい光沢のあるミルクフォームへの変化に数秒かかる理由を説明しています。一度フォームが安定すると、排水が行われる前に、気泡はミルク全体に完全に分散されます。 エスプレッソに含まれる界面活性剤 エスプレッソフォームも泡の議論に関係しています。もしカプチーノとエスプレッソを並べて置いたとすると、エスプレッソは必ず1~2分以内にフォームに穴が空いてしまいます。カプチーノのフォームは、排水のプロセスにより、光沢が多少劣るものの、比較的安定した状態を保ちます。エスプレッソに含まれる弾性の界面活性剤はミルクよりもかなり少なく、これがミルクフォームよりもクレマの持続性が劣る理由を説明しています。 アボット教授は次のように説明しています。 「エスプレッソに含まれる界面活性剤は、多糖類(別名複合炭水化物)と褐色のタンパク質複合体(メラノイジンを含む)の複雑な混合物です。それぞれの成分の表面張力は約60および約46mN/mです。つまり、多糖類のほとんどは界面活性剤ではありませんが、フォームに安定性をもたらします。またエスプレッソのタンパク質は界面活性剤としてはほぼ力不足ですが、適度な量のフォームを生成するには十分な量になります。」 2.04 終

ミルクサイエンス2章04

界面活性剤は、2つの物質間の表面張力を下げる化合物です。表面張力とは、液体表面の分子をくっつけようとする力です。これは、水を結合させて水滴を形成するのと同じ力になります。表面張力によって液体が元に戻るため、純水中の気泡はすぐに破裂します。 気泡が破裂しないようにする最善の方法は、気泡を界面活性剤で包み込むことです。泡の化学において、この包み込むプロセスの名称は「吸着作用」と言います。このプロセスでは、物質が別の物質に付着し、その上に膜が形成されます。このプロセスと、ある物質が他の物質と全体的に混ざり合う吸収のプロセスとを混同しないようにしてください。吸着は表面でのみ生じます。コーヒー飲料では、界面活性剤がミルクと空気の間の表面張力を下げるため、泡が破裂しにくくなります。表面張力が低いということは、フォームの弾力性が高いことを意味します。たとえば、液体に囲まれた泡を引き伸ばそうとすると、泡周囲の界面活性剤の濃度が減少します。これにより表面張力が上昇し、多くのエネルギーが必要になります。適切な量の界面活性剤を使用すると、気泡は破裂するのではなく、元のサイズに戻ろうとします。表面張力が低い弾性フォームにより、ラテアーティストは絵柄をより長く持続させながら、より多くの時間をかけてコーヒーにミルクを注ぐことができます。 ミルクフォームの主な界面活性剤は、タンパク質のβ-ラクトグロブリンです。この非常に弾力性のあるホエイプロテインは、他のタンパク質との混濁を招くことなく、非常に長持ちする泡の生成を可能にします。このタンパク質の鍵となるのは「弾力性」です。フォームのそれぞれの細胞が真新しいゴム風船だと想像してみてください。押したり潰したりすると変形ますが、その形状は元に戻ります。ゴムが少し古くなり脆くなってくると、応力に反応できなくなり、破裂してしまいます。このフォームのFoam Elasticity アプリで説明していますが、弾性をコントロールする要因は複雑で、適切な添加剤を数パーセント使用するだけで大きな違いが生じます。そのため私たちが言えることは、丈夫で弾力のある泡を作るために必要なバランスをβ-ラクトグロブリンが持っているということです。 もともと表面張力が低い場合、全体的に必要な界面活性剤の量は少なくなります。平均気泡径が小さいミルクフォームは、通常、より湿っているため、表面張力が低くなります。アボット教授によると、「一般的に、最も低い表面張力に達する最小限の量の界面活性剤は、より長持ちする泡を生成します。たとえば半径が小さいフォームは、排出がゆっくりなため長持ちする傾向があり、濃厚な質感ため望ましいのです。」とのことです。 ミルクの平均気泡直径を小さくすることで、アボット教授によるフォームに関する5つの要素の3番目の要素である経時的な安定性が得られます。こういったフォームの豊かな質感は、4番目の要素である適度な粘度も満たしています。 ミルクフォームの気泡が安定するまでには時間が必要 ミルクをスチームするとき、非常に大きな気泡がいくつか発生しますが、表面を安定させる物質がその泡の周囲を取り囲むには大きすぎるため、こういった大きな気泡はすぐに破裂します。アボット教授は、「主な界面活性剤は…界面に移動するのが比較的遅い(起泡力の弱い)タンパク質ですが、そこに到達すると強力な界面を生成するため、安定した泡が得られます。」と説明しています。 これは、ミルクをスチーミングする初期段階で、望ましくない大きな気泡があるミルクからきめ細かい光沢のあるミルクフォームへの変化に数秒かかる理由を説明しています。一度フォームが安定すると、排水が行われる前に、気泡はミルク全体に完全に分散されます。 エスプレッソに含まれる界面活性剤 エスプレッソフォームも泡の議論に関係しています。もしカプチーノとエスプレッソを並べて置いたとすると、エスプレッソは必ず1~2分以内にフォームに穴が空いてしまいます。カプチーノのフォームは、排水のプロセスにより、光沢が多少劣るものの、比較的安定した状態を保ちます。エスプレッソに含まれる弾性の界面活性剤はミルクよりもかなり少なく、これがミルクフォームよりもクレマの持続性が劣る理由を説明しています。 アボット教授は次のように説明しています。 「エスプレッソに含まれる界面活性剤は、多糖類(別名複合炭水化物)と褐色のタンパク質複合体(メラノイジンを含む)の複雑な混合物です。それぞれの成分の表面張力は約60および約46mN/mです。つまり、多糖類のほとんどは界面活性剤ではありませんが、フォームに安定性をもたらします。またエスプレッソのタンパク質は界面活性剤としてはほぼ力不足ですが、適度な量のフォームを生成するには十分な量になります。」 2.04 終